高校古文入門:用言の活用④
広島国語屋本舗現古館 館長の小林です。
この記事は、高校に入って古文を本格的に学び始める新高1生を対象にしたものです。
前回は、変格活用について学習しました。
今回は、正格活用について学んでいきましょう。
上一段活用/下一段活用
〇上一段活用:干る、射る、着る、見る、煮る、似る、居る、率る
〇 | 語幹 |
ひ | 未然 |
ひ | 連用 |
ひる | 終止 |
ひる | 連体 |
ひれ | 已然 |
ひよ | 命令 |
正格活用の中でも、上一段活用と下一段活用だけは「暗記動詞」です。
上一段動詞は、「ひる」「いる」「きる」「みる」「にる」「にる」「ゐる」「ゐる」の8種類をまず覚えましょう。
ちなみに、「いる」はヤ行上一段活用、「ゐる」はどちらもワ行上一段活用になります。
ヤ行上一段活用は、「射る」「沃る」「鋳る」の3語しかないので、セットで頭に入れておくとよいですよ。
わ | や | あ |
ゐ | い | い |
う | ゆ | う |
ゑ | え | え |
を | よ | お |
古文の五十音表で大切なのは、ア行、ヤ行、ワ行の区別です。
「射る(いる)」の「い」のように、見た目上はア行だけど実はヤ行、という語があるわけです。
このように紛らわしい語は、当然聞かれやすいわけですから、ひっかけられやすいものは演習の中で覚えていくことをおススメします。
〇下一段活用:蹴る
〇 | 語幹 |
け | 未然 |
け | 連用 |
ける | 終止 |
ける | 連体 |
けれ | 已然 |
けよ | 命令 |
下一段活用は「蹴る」1語なのでお手軽ですね。
上一段活用の活用パターンを覚えていれば、「イの音」を「エの音」に変えるだけです。
あ |
い |
う |
え |
お |
「あいうえお」の中央に位置する「う」。
その一つ上の音(イの音)だけを使って活用するから上一段活用、一つ下の音(エの音)だけを使って活用から下一段活用なのだと覚えておくとよいでしょう。
ちなみに、「イの音」と「ウの音」を使うものを上二段活用、「エの音」と「ウの音」を使うものを下二段活用と言います。
四段活用/上二段活用/下二段活用
〇四段活用:暗記動詞以外で未然形がアの音
走 | 語幹 |
ら | 未然 |
り | 連用 |
る | 終止 |
る | 連体 |
れ | 已然 |
れ | 命令 |
〇上二段活用:暗記動詞以外で未然形がイの音
起 | 語幹 |
き | 未然 |
き | 連用 |
く | 終止 |
くる | 連体 |
くれ | 已然 |
きよ | 命令 |
〇下二段活用:暗記動詞以外で未然形がエの音
捨 | 語幹 |
て | 未然 |
て | 連用 |
つ | 終止 |
つる | 連体 |
つれ | 已然 |
てよ | 命令 |
暗記動詞は覚えてしまえば終了ですが、世の中には暗記動詞以外の動詞が大多数なわけです。
では、暗記で片のつかない動詞の活用の種類はどのように判断するのか。
打消の助動詞「ず」をくっつけてみましょう。
「走る」+「ず」→「走らず」
「起く」+「ず」→「起きず」
「捨つ」+「ず」→「捨てず」
活用語尾が「アの音」になれば四段動詞、「イの音」になれば上二段動詞、「エの音」になれば下二段動詞です。
現代語と古語の違いはもちろんありますし、「この音がしっくりくる!」と確信して判断した活用の種類が間違っているということもままありますが、間違えたものだけを覚えていけばよいわけです。
そうすることで、暗記すべき知識の絶対量がおさえられますからね。
練習問題
1、次の傍線部の語を適切な語形に改めなさい。(明治大)
「…」と告ぐ人ありければ、
2、次の傍線部の活用形を選びなさい。(法政大)
これらは、さまこそかはれども、みなものに耐へ忍ぶるたぐひなり。
①未然形
②連用形
③終止形
④連体形
⑤已然形
⑥命令形
3、次の傍線部の語の活用の種類と活用形を選びなさい。(青山学院大)
あまた年経ぬれば、いよいよ頭の雪積もり、面の波も畳みて、いとど見まうくなりゆく鏡の影も、我ながらうとましければ、
①四段活用・未然形
②四段活用・連用形
③下二段活用・未然形
④下二段活用・連用形
⑤ラ行変格活用・未然形
4、次の傍線部の語と活用の行と種類が同じものを選びなさい。(日本大)
母、一尺の鏡を鋳させて、え率て参らぬ代はりにとて、僧を出だし立てて初瀬に詣でさすめり。
①似る ②射る ③入る ④居る
解答
1、告ぐる
用言の活用を問う問題の基本は、①その語の品詞、活用の種類を判別する②その語の活用形を判別する、という2段階で考えていきます。
「告ぐ」は暗記動詞ではありませんから、助動詞「ず」をくっつけて活用の種類を判断しましょう。
「告げず」が最もしっくりきますから、ガ行下二段活用で確定です。
「告ぐ」の直後には「人」という体言があるので、活用形は連体形。
よって、「告ぐる」が解答になります。
2、⑤
まずは終止形「かはる」を想定しましょう。
こちらも暗記動詞ではありませんから、「ず」をくっつけ、ラ行四段活用だと判断します。
四段動詞でエの音をとるのは「已然形」か「命令形」であり、文末でない以上「命令形」ではないので、已然形が解答だとわかりますね。
ちなみに、接続助詞「ども」は逆接確定条件(~のに、けれども、のだが)をつくる語で、上に已然形をとります。
この知識を知っていれば一撃の問題でした。
接続助詞は活用もなく、上にくる語の活用形を一瞬で判断できるため、まっさきに覚えておいてほしい知識です。
で、ば→上に未然形
して、て、つつ、ながら→上に連用形
と、とも→上に終止形
を、に、が、ものの、ものから、ものを、ものゆゑ→上に連体形
ば、ど、ども→上に已然形
*未然形+ば→順接仮定条件(~ならば)、已然形+ば→順接確定条件(~と、ので、ところ)
3、④
「得(う)」「経(ふ)」「寝(ぬ)」は語幹と活用語尾の区別がない語なので注意が必要です。
これらは全て下二段活用の動詞ですが、連体形になったとき見た目上「経る」となります。
現代語の感覚だと、「へる」と読んでしまいそうですが、ハ行下二段動詞の連体形であれば「ふる」と読まなくてはいけませんよね。
さて、今回は「ぬれ」、つまり完了の助動詞「ぬ」の已然形に接続しているわけですが、完了の助動詞「ぬ」が上に連用形をとるという知識がなければ、③か④かを決めきれませんね。
よって、用言の知識しか身についていない初学者の方は、③か④まで絞れていればよいわけです。(完了の助動詞「ぬ」が上に連用形をとるという知識は今覚えていただければ結構です)
4、②
ヤ行上一段活用の動詞は、「射る」「沃る」「鋳る」の3語だとお伝えしました。
暗記で片が付くものは暗記で片を付けましょうね。