時には国語の話を
広島国語屋本舗現古館 館長の小林です。
ここのところ、見た目の上では「国語」とずれた話をしていたので、久しぶりにそのまんま国語のお話をしてみようと思います。
タイトルは加藤登紀子さんの名曲をもじったものです、伝わりましたでしょうか。
本日は、小学生・中学生の指導に使っているテキストの一部を紹介しながら、私が国語指導において重要だと考えていることの一部をご紹介しますね。
発問力
彼は( )主義だから、きらわれる。
ジコ リコ ハクアイ
文に合った熟語を選び、漢字に直して補充する問題です。
漢字が書けているね、〇!
これは指導といえるんでしょうかね。
①漢字が思い浮かばなくても、消去法で当てはまる熟語が選べるなら、〇をつけておこう
②解答でない選択肢も、漢字が思い浮かべば書いておこう
このぐらいの指示は当たり前ですね。
「自己主義、利己主義、博愛主義ってどういう意味?」と質問すれば、言葉の意味を理解して使いこなせているか確認できます。
理解していないなら、辞書で調べてもらうことで自己解決力を身に付けることができます。
「自己主義」は知らない人が多い言葉ですから、この語彙が増えるだけで力になりますし、「利己主義」が分からないのであれば、「己(おのれ)を利する」という熟語の構成が理解できていないということが分かります。
「博愛主義の”博”って他にどんな読み方がある?」と質問して、「ひろ」「ひろし」と読めれば、「愛がひろいこと」という説明だけで意味が分かってもらえるでしょう。
「彼は( )なのに、きらわれる、という問題だった場合の正解は?」と質問すれば、順接、逆接の論理関係の指導も可能ですよね。
漢字の問題1つでこれだけ学びのチャンスがあるわけですが、これができるのは指導者がマトモであり、なおかつ個別演習形式だからなんですね。
指導者の発問力が学びの機会を広げるというわけです。
添削力
国語辞典を開くと、こんな言葉が目に入る。
「セミは美人の生まれ変わり」
その意味は、「セミの羽がうすくて美しいことから」とあるが、私にはどうもピンと来ない。
「羽化の瞬間の美しさ」をたとえたのなら、合点がゆく。
何しろ羽化したてのセミときたら、全身真っ白で、まるでオパールのような輝きを持っているのである。
とは言うものの、ノコノコがセミへの変身を遂げるのは、真夜中の密やかな出来事であり、①その美しい姿を見る人は少ない。
(中略)
翌朝目を覚ますとノコノコはすでに褐色のセミ……。そんなことをいく度もくり返した。
澤口たまみ「虫のつぶやき聞こえたよ」より。
傍線部①「その美しい姿を見る人は少ない」とあるがなぜか。二十字以内で書きなさい。
この問題の模範解答は、「セミの幼虫が羽化するのは真夜中だから。」です。
しかし、生徒がこんな解答を書いてきた場合はどうでしょう。
「セミの幼虫は、羽化の翌朝褐色になるから。」
この生徒の解答、実はかなりレベルの高い解答なんですよ。
「セミの羽化した直後の姿=美しい」「セミの羽化した翌朝の姿=美しくない」という対比構造が見えていないと、この解答は書けないんですね。
傍線部の「その美しい姿」の指示内容が「セミの羽化した直後の姿」であることも示せていますし、それを見ることができる人が少ない理由が「翌朝には美しい姿を失ってしまうから」であるということも書けています。
しかし、そうした生徒の到達段階を理解できず、こういった解答を×にしてしまう指導はかなり多いんですよ。
模範解答と生徒の解答を見比べるだけの指導なら、AIに任せた方がよほど精度が高いでしょうね。
生徒が現古館に来る前に某大手塾で使っていたテキストへの書き込みや、私が過去所属していた個別指導塾での周りの講師の指導を見てきた経験則ですが、正直怖いですよね。
こうして、少しでも表現がずれていたら模範解答を赤ペンで書き写す、思考停止してしまった生徒が量産されるわけです。
指導者の解答構成力、もとい生徒の解答への添削力は、人によってかなりの開きがあることは知っておいていただければと思います。
結論は、マトモな指導者のもとで学びましょう、ということです。
もちろん、館長は(アルコールが大好きということを除けば)マトモな側の指導者ですよ。