令和5年度:広島県公立高校入試【国語・大問1】解説

広島国語屋本舗現古館 館長の小林です。

令和5年度の広島県公立高校入試【国語】、全体を通して好感をもてる作題でした。

大問4の小作文が大問3の古典に吸収されたことで、文章量・記述字数が減少し、骨のある記述問題が増加した印象です。

文章量が減ったことで解答にたどり着くための誘導が控えめになったこと、小作文が古典とリンクしていることで、古典の趣旨が理解できなければ9点をまるっと落としてしまうこと、この2点が「難化」と言える主な原因ですね。

しかしながら、時間的圧迫から深く考える時間があまりなかったこれまでの作題と比べて、文章を読みこむ時間が確保できるという点で素晴らしい作題だと思いました。

では、さっそく大問1の解説に入ります。

文豪の作品からの出題が終わった昨年度に引き続き、現代の小説作品が出題されていますね。

1 漢字の読み

ア:こ

イ:ほこ

ウ:くちょう

2 適語補充

ウ 不満げな


適語補充問題の鉄則は、空欄の前後に注目することです。

根拠なしに適語を補充することは不可能ですから、明確な根拠をとりに行く姿勢は崩さないようにしましょう。

春休み前、”豪華景品”を受け取りに行ったときのことだ。なんのことはない、校長先生が学生時代に出した詩集を、自費出版で立派な装丁の本にしたものだった。タイトルは、『青春はがんもどき』。気持ちはうれしいけど、こういうのをもらって、喜ぶ子はいるんだろうか……。でも、「造本に凝って、時間がかかってしまったよ、ほらこのフランス装がきれいでしょう?」とうれしそうな校長先生を前にして、(   )顔を見せるわけには、いかなかった。

高柳克弘「そらのことばが降ってくる」による。

ユミは校長先生にもらった詩集に対して、腑に落ちない思いを感じています。

その一方で、それ渡してきた校長先生はご満悦です。

間違っても、本心をあらわにしてはいけない場面ですね。

「物知り」「得意げな」「不満げな」「何食わぬ」のうち、あてはまるものは「不満げな」しかありません。

ちなみに、「何食わぬ顔」とは「何も知らないようにふるまうさま」という意味です。

3 理由説明

俳句を伝統文化と言ってしまうと、俳句が、祠の中の神様のように(Ⅰ:今の自分とはかけ離れた)存在になってしまうが、ハセオにとって俳句とは、(Ⅱ:いまの自分の気持ちや、体験を盛るための器)であるから。


俳句は伝統文化。そう言った先生の言葉が、どうしても許せないのだという。伝統文化と言ったとたんに、祠の中の神様みたいになるのが、自分はいやだ。俳句は確かに昔からあるけれど、いまの自分の気持ちや、体験を盛るための器として、自分は俳句をやっている。校長先生の発言は、①”いま、ここの詩”として、俳句を作っている自分たちを、ないがしろにするものだ。

高柳克弘「そらのことばが降ってくる」による。

解答根拠のある場所を探すのは容易だと思います。

適語補充は前後に注目、空欄Ⅰの直前にある「祠の中の神様のように」という表現が傍線部の直前にありますから、その前後にハセオの思いが書いてあるわけですね。

Ⅱの解答はすぐに見つかると思いますが、Ⅰはなかなか難しかったのではないでしょうか。

「祠の中の神様のように」は比喩表現ですが、比喩に含まれる主張を考えて書く必要があります。

ハセオは「俳句は伝統文化」と言った校長先生の発言に反発しているわけですよね。

彼の主張は、「俳句は、今の自分の気持ちや体験を表現するものである」というものです。

「伝統文化」という言葉は、どこか「昔のもの」という印象を与える言葉ですからね。

だからこそ、今の自分とはどこか心理的距離のあるものとして、詩を遠くに感じさせてしまうわけです。

「祠の中の神様」は、大切に祭られているけれども容易には近づきがたいものですよね。

そういった共通点を見抜けるかを問う問題でした。

ただ、ここは幅広く解答が許容されるはずで、「俳句を遠くに感じちゃう」という趣旨が反映できていれば正答とみなされるでしょう。

素敵な出題でした。

4 同義換言

「そらのことば」は、てのひらに振ってくる雪を言いかえたものであり、(Ⅲ:「そら」とひらがなで書いたのは雪のつぶのやわらかさを表現しようとした)のではないかと、校長先生は解釈した。


「雪がふる そらのことばを 受け止める」というハセオの詩について、校長先生が解釈した内容を書く問題でした。

校長先生が詩を解釈している箇所は、本文最終段落だけですから、そこにある表現をほんの少し手直しして書くだけです

5 書き抜き問題

この学校に


本文を読んだだけでは、傍線部の「サクラシール」が何を意味するのか分かり辛かったですね。

ただ、問題文の中に「ユミが俳句大会でサクラシールを貼り、この句を選んだ」とありますから、投票用のシールだったことが分かります。

つまり、ユミがハセオの俳句について好感を抱いた理由にあたる箇所を探せばよいわけですね。

傍線部のあとに、「~うれしくて、最終的にこの句を選んだのだった」とはっきりと書いてありますから、ここも探すだけの問題でした。

6(1) 適語補充

①「そら」の部分にかけがえのない句友である「ソラ」の名前をかけた、

②ハセオからソラへの挨拶だ


例年出題されている、生徒の会話文への適語補充問題です。

空欄の前後を確認すると、ユミがハセオの俳句について「知っている」ことを書くのだと判断できます。

ユミがそれを語っているのは、本文最終段落ですから、そこにある言葉をまとめるだけです。

ただ、「ハセオからソラへの挨拶だ」の部分については、解答の幅は許容されるはずです。

「挨拶」という本文にある言葉をそのまま使っていなくても、「親愛のメッセージ」だとか「友情を抱く気持ちが込められている」だとか、書き方はいろいろありますね。

6(2) 適語補充

三人は、(V:十七音という限られた文字数で表現する俳句を通した友人であり、|言葉を尽くさなくても互いへの思いは伝わる)という関係にあるから。


ユミがハセオの俳句の真意を「知らないままでいい」と思った理由について書く問題です。

空欄の前後に、「三人は~という関係にあるから」とありますから、三人の関係性がどのようなものかについては書く必要がありますね。

問題文の中に「俳句の特徴を踏まえて」、【生徒の会話】の中に「句友であることを踏まえて」と、何度も誘導がありますから、俳句の特徴について分かる部分を本文から探しましょう。

すると、本文最後の二文「私たちは、句友だ。たがいへの思いは、だらだらと語らなくても、じゅうぶんにわかっている。」が見つかります。

俳句がだらだら語らず表現するものであること、だらだら思いを語らずとも互いへの思いはじゅうぶんにわかる関係性であること、この2点を用いて解答を作成します。


令和5年度:広島県公立高校入試【国語・大問2】についてはこちらをご覧ください。