高校古文:助動詞「らし」「めり」「なり」の識別と確認問題
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
引き続き、古文文法の鬼門、助動詞の識別についての記事を配信いたします。
本日は、終止形接続の助動詞「らむ」について扱います。
「らし」「めり」「なり」の接続と識別
〇「らし」「めり」「なり」の接続:終止形接続
助動詞「らし」「めり」「なり」は、「終止形接続の助動詞」です。
*ウの音接続、ときいてよくわからなければ、助動詞「らむ」の解説部分を読み返しましょう。
〇活用(「らし」→不変パターン / 「めり」→ラ変パターン / 「なり」→ラ変パターン)
〇|〇|らし|らし|らし|〇
〇 | 〇 | めり | める | めれ | 〇
なら | なり | なり | なる | なれ | なれ
☆「らし」の識別基準
①推定〈~らしい〉
*客観根拠による推定
*和歌内に用いられることが多く、根拠部と推定部に分けることができる
例)古の 人の植ゑけむ 杉の枝に 霞たなびく 春来ぬらし
→ 昔の人が植えたとかいうその杉の枝に、霞がたなびているよ。いよいよ春が来たらしい。
*「いよいよ」と強調しているのは、「ぬ」の下に推定の助動詞(推量系の助動詞)がきていることから、確述用法をとっているためです。
☆「めり」の識別基準
①推定:主に視覚を根拠とする〈~ようだ〉
②婉曲:下に体言を伴う〈~ような〉
☆「なり」の識別基準
①伝聞:直前に音声を表す語を伴う。また、他者を根拠とする〈~そうだ〉
②推定:主に聴覚を根拠とする。また、自己を根拠とする〈~ようだ〉
*断定・所在の「なり」との識別:終止形(ラ変形は連体形)接続 → 伝聞推定
連体形・体言接続 → 断定・所在
例)男のすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。
→男が書くとかいう日記というものを、女の私も書いてみたいと思って書くのである。
確認問題
1、次の傍線部の助動詞の意味を選べ。(立教大)
とかくおぼしたまふほどに、やうやう御さかりのほどにも、なりゆくにつけて、いとどあかぬ所なく光り添ひたまふぞ、げに見るかひあめる。
①伝聞 ②断定 ③完了 ④推定 ⑤自発
2、次の傍線部の助動詞の意味・活用形を答えよ。(山口大)
もろともなる人の所に帰りて、ものなどものするほどに、ある者ども、「この乾の方に火なむ見ゆるを、出でて見よ」など言ふなれば、「唐土ぞ」など言ふなり。
解答・解説
1、④
覚えていれば一撃でした。
あまりに解説することがないので、音便についてふれておきましょう。
音便の基本は、
1、発音しやすくするために 2、用言・助動詞の発音を 3、イ、ウ、ン(撥)、ツ(促)に変更する
ということです。
たとえば、イ音便に変化するのは〇行四段活用の連用形!とか、行の規則性はあります。
ですが、そんなものは僕たちの現代語の感覚と大差ないものなので、とりたてて定義部までを覚える必要はありません。
おおざっぱに、
イ→四段・連用形&形容詞・連用形&助動詞・連体形の一部
ウ→四段・連用形&形容詞・連体形&助動詞・連用形の一部
ン→四段・連用形&形容動詞・連体形&助動詞・連体形の一部とナ変の連用形
ツ→四段・連用形の一部とラ変の連用形
と理解しておきましょう。
〇撥音便化・無表記形について
ご存知の通り、撥音便化したのちに「ん」の音が落ちて表記しないものがあります。
(というか、それが本来正しいのです。古語に「ん」という文字が存在していなかったのですから。発音はしていたけれども、書いていなかったということです。)
それを、撥音便化・無表記形と呼びます。
たとえば、「なるめり」→「なんめり」→「なめり」みたいな。
こんなものは、よく出るものだけをまとめて覚えておけばよいのです。
元の形と、変化後の形さえ覚えておけば、変化の過程は「ん」にしておくだけなのですから。
音読を10回もすれば、少なくとも「見たことあるな」状態にはなります。
それでいい分野です。
*促音便も無表記形がありますが、出ないのでほうっておきましょう。
◎よく出てくる音便
あるべき→あんべき→あべい
*「き」を「い」と読んでいます。透垣(すきがき)が「すいがい」になる感じ。
あるめり→あんめり→あめり
*これは異説あり。「ありめり」からの変化だとする説が出てきて、その説が有力なのでほぼ聞かれることはない。今回の問題にはこれが出てきていますね。
あるなり→あんなり→あなり
さるべき→さんべい→さべい
ざるめり→ざんめり→ざめり
べかるめり→べかんめり→べかめり
べかるなり→べかんなり→べかなり
たるめり→たんめり→ためり
なるめり→なんめり→なめり
*頻出。断定「なり」・連体形・撥音便化・無表記形+婉曲推量「めり」
なるなり→なんなり→ななり
*頻出。断定「なり」・連体形・撥音便化・無表記形+伝聞推量「なり」
2、伝聞・已然形
「ある者ども」という他者を根拠に、火事の噂を聞いていますから、伝聞となります。