高校古文:助動詞「けむ」の識別と確認問題

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

引き続き、古文文法の鬼門、助動詞の識別についての記事を配信いたします。

本日は、連用形接続の助動詞「けむ」について扱います。

「けむ」の接続と識別

〇「けむ」の接続:連用形接続

助動詞「けむ」は、「連用形接続の助動詞」です。

*助動詞「けむ」は、助動詞「む」の時制が過去化したものだと考えると分かりやすいです。

「けむ」:過去 「らむ」:現在 「む」:未来 と大まかに捉えておくとよいでしょう。


〇活用(「けむ」→四段パターン)

〇|〇|けむ|けむ|けめ|〇


☆識別基準

①過去伝聞・過去婉曲:下に体言が伴う場合〈~たとかいう/~たような〉

②過去推量:三人称主語の場合に多い〈~ただろう〉

③過去の原因推量:疑問語を伴う場合が多い〈どうして~ただろうか〉

確認問題

1、傍線部について、その中に用いられている助動詞の文法的意味を記せ。(甲南大)

それもきのふけふの世間なれば、諸事にむつかしくやありけむ、たたけどもたたけども音もせず。


2、傍線部の品詞は何で、活用形は何形か。またこれと関連のある係助詞は何か。(関東学院大)

いづれの年にや、栖を此境に移す時、芭蕉一もとを植う。風土芭蕉の心にやかなひけん、数珠の茎を備え、其葉茂りかさなりて庭を狭め、萱が軒端もかくるばかりなり。人呼て草庵の名とす。


3、空欄に入れるのに、最も適当な助動詞を、「き」「たり」「けむ」の中から選び、活用させて書け。(立命館大)

我ながら心弱くおぼえつつ、逢坂の関と聞けば、「宮も藁屋も果てしなく」と詠め過し【  】蝉丸のすみかも、関の清水にやどる我が面影は出で立つ足許よりうちはじめ、ならはぬ旅の装ひいとあはれにて、休らはるるに…

解答・解説

1、過去の原因推量

「や」という疑問・反語を示す係助詞がありますから、過去の原因推量で一撃だったと思います。

「それも昨日今日の世間なので、いろいろと難しかったのだろうか、たたいてもたたいても返事がない。」という訳になります。


2、助動詞/連体形/や

係り結びが起こりながらも、文が終わらず接続していく形を「挿入句」と言います。

ここでは、「や~けむ」が挿入句を作っているわけですね。

ここでも、「や」という疑問・反語を示す係助詞がありますから、過去の原因推量…と言いたいところですが、「過去推量」になります。

識別基準はあくまで基準であり、訳がしっくりこなければ別の可能性を素直に追いましょう。

「いつの年であったのだろうか、私は住まいをこの地に移す時に、一本の芭蕉の木を植えた。土地柄が芭蕉の木に適したのだろうか…」と訳せますから、原因推量で訳すとおかしくなってしまいますよ。


3、けむ

「蝉丸」は百人一首にも出てくる歌人で、「すみかも、跡だにもなく」とあるので、過去の人物だということは明確ですね。

体験過去を示す「き」や完了・存続の「たり」は入りませんから、「けむ」を活用させればおしまいです。

下に体言があるので、連体形の「けむ」が正解ですね。