高校古文:助動詞「たり」の識別と確認問題

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

引き続き、古文文法の鬼門、助動詞の識別についての記事を配信いたします。

本日は、連用形接続の助動詞「たり」について扱います。

「たり」の接続と識別

〇「たり」の接続:連用形接続

助動詞「たり」は、「連用形接続の助動詞」です。

*接続助詞「て」+ラ変動詞「あり」が縮まった形なので、「て」の接続と同じ、と考えれば良いでしょう。


〇活用(「たり」→ラ変パターン)

たら|たり|たり|たる|たれ|たれ


☆識別基準

①存続:まずは存続で訳してみる〈~ている/ていた〉:動作の継続

②完了:①で不自然ならこっち〈~た/てしまった〉:動作の終了

確認問題

問:完了の助動詞「たり」は、現代語の過去(回想)の助動詞「た」のもとの形で、一般に動作・作用の完了を表すが、本来「てあり」のつづまったものであり、「てある」「ている」のように、動作・作用の継続や結果の残存ないし状態を表すこともある。問題文中のア~コの十個の「たり」(活用形の区別を問わない)のうち、後者の「てある」「ている」と訳す方がふさわしいものを四つ選ぶとすれば、その組み合わせはどれがよいか選べ。(関西大)

さてこの源三位入道頼政、この人一期の高名と覚えしことは、近衛院御在位の時、主上夜な夜な怯え魂ぎらせ給ふ(気絶なさる)事ありけり。御悩は丑の刻ばかりでありけるに、東三条の森の方より、黒雲一叢立ち来て御殿の上に覆へば、必ず怯えさせ給ひけり。先例により、武士に仰せて警固あるべしとて、源平両家のつはものどもの中を選ばせられけるに、頼政を選び出だされたりけるとぞ聞えし。その時はいまだ兵庫守にてありけるが、召に応じて参内す。頼政は頼みきつたる郎等遠江国住人猪早太ただ一人をぞ具したりける。

日頃人の申ししに違はず、御悩の刻限に及んで、東三条の森の方より、黒雲一叢立ち来て、御殿の上にたなびいたり。頼政きつと見上げたれば、雲の中にあやしき姿あり。南無八幡大菩薩と、心の内に祈念して、よつ引いてひやうど射る。手ごたへしてはたとあたる。「得たり、をう」と矢叫びをこそしたりけれ。猪早太つつと寄り、落つるところを取つて押へて、続けさまに九刀ぞ刺いたりける。その時上下手手火を点いて、これを御覧じ見給ふに、頭は猿、躯は狸、尾は蛇、手足は虎の姿なり。なく声鵼にぞ似たりける。主上御感の余りに、獅子王といふ御剣を下されけり。…頃は四月十日あまりのことなれば、雲居にほととぎす二声三声音づれてぞ通りける。その時左大臣殿、「ほととぎす名をも雲居に上ぐるかな」と仰せられかけたりければ、頼政右の膝をつき、左の袖を広げ、月を少し側目にかけつつ、「弓張月のいるにまかせて」と仕り、御剣を賜つて罷り出づ。「弓矢を取つてならびなきのみならず、歌道もすぐれたり」とぞ、君も臣も御感ありける。

a:アイウキ  b:アウカク  c:アエオケ  d:アオカケ  e:イウクコ 

h:イエキケ  i:イカキコ  j:ウエクコ  k:エオカコ  l:オキクケ

解答・解説

解答:e

まずは「~ている/~ていた」という存続で訳してみて、それでうまくいかなければ完了、という基本の流れに忠実にいきましょう。

もちろん、「これ、どっちもいけるんじゃね?」というものもありますが、試験になる以上、選択肢の構成で解答が1つに絞れますから、まずは確実に判断できるところを確定させていき、最後に選択肢を吟味していく、という順序でやってみてください。

さて、まずは選択肢の比率に注目してみましょう。

アを含む:アを含まない:アイを含まない:アイウを含まない:アイウエを含まない=4:3:1:1:1 になっています。

この時点で、アが存続なのかどうかの判断を最初にすべきです。

「源平両家の猛者を選ばせなさったところ、頼政をお選びになったということだ。」と訳せます。

ここで、「お選びになっている、お選びになっていた」という動作の継続を示すのは不自然ですから、この時点でabcdの選択肢は消えます。

次に、イの意味です。

「頼政はと頼りにしきっている郎党である遠江国の住人の…」と訳せますから、イを含んだ選択肢が解答で確定します。

ここで「頼りにしきっていた(でも今は頼りにしていない)」と動作の完了を示してしまっては意味が通りませんからね。

解答はehiに絞られました。

最後に、ウ→エ→カの順に確認していきましょう。

ウが存続ならeが解答で確定、エが存続なら…という風に、すべての選択肢をチェックする手間が省けますからね。

しかし、厄介なことに、ウを単独でみるとどちらでもとれそうなんですよね。

迷ったら次の選択肢を確認すればよいです。

エですが、「黒雲が一つ近づいてきて、お屋敷の上にたたずんだ。」という完了の訳が適当ですね。

これを存続で訳してしまうと、頼政はお屋敷の上に怪しい雲がやってきたのにもかかわらず、しばらくそれを眺めて、思い出したようにきっと見上げた…という、無能感満載のお話になってしまいます。

よって、hは誤答ですね。

カはどうでしょうか。

「射たぞ、どや!と矢叫びをした」と訳す他ありませんよね。

完了なので、iも誤答。

ということで、消去法的にeを解答と判断する、ということになります。

私大特有の選択肢の扱い方、これを機に慣れておいてほしいと思います。