高校古文:助動詞「す」「さす」「しむ」の識別・確認問題

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

引き続き、古文文法の鬼門、助動詞の識別についての記事を配信いたします。

本日は、未然形接続の助動詞「す」「さす」「しむ」について扱います。

「す」「さす」「しむ」の接続と識別

〇接続:未然形接続

助動詞「す」「さす」「しむ」は、すべて「未然形接続の助動詞」です。

前回学習した助動詞「る」「らる」と同様に、「す」「さす」「しむ」は共通の意味を持っていながらも使い分けが存在します。

そちらを以下の例で確認しておきましょう。

〈例〉

アの音(四段・ナ変・ラ変)+す → 嘆く(カ行四段) + す → 嘆かす 

それ以外の音+さす → 捨つ(タ行下二段) + す → 捨てさす

漢文訓読文・和漢混交文 → しむ

*漢文を学習していると、使役形という句形が出てきます。

(A) 使(教、俾、令、遣)ム Bヲシテ Cセ:A Bをして Cせしむ:AはBにCさせる

古文と漢文には密接な関係があるんです。


〇活用(下二段パターン)

こちらも助動詞「る」「らる」と同様に、下二段パターンで片が付きます。

せ|せ|す|する|すれ|せよ

せ|せ|す|する|すれ|せよ

め|め|む|むる|むれ|めよ


☆識別基準

 ①使役:下に尊敬語が伴わない場合は絶対これ〈~に~させる〉

 ②尊敬:下に尊敬語を伴う+主語が偉い人自身〈~される/なさる〉

 *下に尊敬語を伴う場合だけ、使役・尊敬の判断が必要

→ 格助詞「に」がある/補える場合は、ほぼ使役

確認問題

1、傍線部の助動詞の意味、終止形、活用形を答えよ。(白百合女子大)

見るに打たむことのいとほしうおぼえければ、


2、傍線部の文法的説明として最適なものを選べ。(神奈川大)

しばしあれば、宮、紅の御衣二つばかりにおしつつまれて、鞠のごとく御簾中よりころび出でさせ給ひて、

1 「させ」は尊敬の助動詞

2 「させ」は使役の助動詞

3 「さ」は動詞の一部、「せ」は尊敬の助動詞

4 「さ」は動詞の一部、「せ」は使役の助動詞


3、本文に文法上の誤りが一ヶ所ある。その単語を抜き出し、正しい形に直せ。(玉川大)

今は昔、田舎の児の比叡の山へ登りたりけるが、桜のめでたく咲きたりけるに、風のはげしく吹きけるを見て、僧のさめざめと泣きけりを見て、僧のやはら寄りて、「などかうは泣かさせ給ふぞ。この花の散るを惜しう覚えさせ給ふか。」


4、傍線部「せ」と同じ意味・用法のものを選べ。(同志社大)

この道に志の深かりし事は、道因入道並びなき者なり。七、八十になるまで、秀歌詠ま給へと祈らむため、かちより住吉へ月詣でしたる、いとありがたきことなり。

1 上おはしますに、御覧じていみじう驚か給ふ。

2 こなたかなたに心をあはせて、はしたなめわづらは給ふ。

3 父判官も軍奉行をつかまつららるる上は、われこそ先陣を駆けめ。

4 家来多く討たせ、馬の腹射さて引き退く。

5 御門おりさせ給ひて、春宮四つになら給ふにゆづり申させ給ふ。

解答・解説

1、使役/す/未然形

まだブログ内では扱っていませんが、「せ」の直後にある助動詞「む」は、未然形接続の助動詞です。

この知識がまだ頭に入っていなかったとしても、「す」の活用形を覚えていれば、少なくとも「未然形」「連用形」の2択までは絞れますね。

尊敬を示す語を伴っていないため、意味は「使役」で一撃だったと思います。


2、1

3、4を解答だとした場合、「ころび出です」という語感の悪い動詞が誕生しますから、こちらは避けていただきたいと思います。

この問題では、「させ」の直後に「給ひ」という尊敬の補助動詞がありますから、文脈による意味の判別が必要です。

さて、「ころび出で」たのは誰でしょうか?

接続助詞「て」で文がつながっている場合、原則主語は変化しませんから、「宮」という高貴な人物ですね。

真っ赤な衣にくるまって、御簾の中からころころっと出てきたわけです。

誰かに着物にくるまれてころが「され」た場合は、とんでもない事件が発生しているわけですから、「させ」は尊敬となり、「給ひ」と合わさって二重尊敬(最高敬語)となります。


3、させ→せ

おかしいのは「泣かさせ」の「させ」です。

「す」「さす」「しむ」の使い分けについて覚えていれば、「さす」が「アの音以外」につくことが分かりますから、指摘できたと思います。


4、2

問題文の「せ」の判別は比較的容易だったかと思います。

道因入道が、「70歳80歳になるまで優れた和歌を詠ませて♡」と住吉神社にいらっしゃる「神」にお願いに行く、という文脈ですから、和歌を神が詠ま「せる」わけです。

よって、「使役」の助動詞「す」の連用形(尊敬の補助動詞「給ふ」という用言についている)となります。

それでは、選択肢を確認していきましょう。

1、5→ それぞれ「上」「春宮(皇太子のこと)」という皇族が主語となっているため、二重尊敬だと判断できます。

3、4→尊敬の語を伴っていないため、一見すると「使役」と判断してしまいそうですが、誤りです。

3は、中世以降の特殊な用法で、尊敬の助動詞「らる」を伴って二重尊敬を作っています。

ここを「使役」で訳してしまうと、「父判官も軍奉行をつとめさせ申し上げているからには、私も先陣を駆けましょう」となり、不自然です。

4も、軍記物語に特有な用法で、「受身」の意味を持っています。

プライドが高い武士の世界観ですから、「やられちゃった♡」とは言わずに「あえてやらせてあげたんだけど?」と言うわけです。

もし4を使役で訳すとすると、「家来をたくさん討たせて、馬の腹も射させて退却する」となり、とんでもない無能司令官が誕生します。

2→「せ」の直前の語「わずらふ」は「悩む・苦しむ」という意味の語で、「はしたなむ」は「困らせる」という意味の語です。

自動詞と他動詞、意味が釣り合いませんね。

「こなたかなたにも心をあはせ」た人々が、誰かを「困らせ」「苦しませ」ているという文脈です。

よって、これが「使役」になります。