出題の意図

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

これは当たり前のことなんですが、出題される問題には、それを出題するに足る教育的意図があります。

広島県公立高校入試選抜Ⅱの出題傾向が変化して6年が経ちますが、それ以前の出題と現在の出題とを見比べてみれば一目瞭然ですね。

2022年度の現代文の出題に目を通すと、東大は「ケアと共同性ー個人主義を超えて」、京大は「忘れ得ぬ言葉」を通して、コロナ禍におけるケアの在り方や人間関係の在り方に一石を投じています。

作題者はいわゆる「知識人」と呼ばれる層に属しています。

彼らが社会の動きを考慮せずに作題をすることはありえませんから、私たちの関心の有無はともかくとして、そういった知識をもっておかなければ不利だということは言えます。(関心を持っておかないと将来大変だろうなぁとは思いますが、必要のない生き方もできなくはありません。)

さて、2023年度の大まかな出題傾向は決定しましたね。

答えは、「国際秩序」です。

以下の内容は政治的なお話が混ざっていますから、私の雑多な思考に興味がある方だけお読みください。

国際秩序

ウクライナ情勢についてのきなくさい話は以前からありましたが、とうとう現実のものとなってしまいました。

午前中のtwitterトレンドが「ウマ娘一周年」「10連ガチャ無料」だったときには、非常に暗澹たる気持ちになりましたが、さすがに今は「ウクライナ」がトレンド3位になっています。

国連安保理の常任理事国が、誰の目にも明らかな侵略戦争を開始したことを見ると、国連憲章もそれを守らせる仕組みがなければただの作文だと証明してしまった結果になりますね。

世界大戦というものを「その後の国際秩序を決定付ける戦争」だと定義すると、まさに今「第三次世界大戦」が起こっているということになるのでしょうか。

「多様性」という言葉がいかに現実と乖離した寝言であったかがよく分かる世界になってしまいました。

人類史上初の世界機構が80年続いたのだと考えれば、ある意味長くもった、という見方もできそうですが、これを機に新たな国際秩序・国家力学が生み出されることははっきりしています。

現代文の世界では、「東西の二項対立で世界を捉える世界→グローバル化による多様性の世界」「アメリカナイズされた世界の是非」といったお話はもともと鉄板だったわけですが、「対立を乗り越えるためには」「国際秩序を守るためには」なんてお話の出題が目に見えて増えそうですね。

日頃から自分が身を置く世界についていかに関心をもっているかという部分が「学力」に影響することは火を見るより明らかですから、「知は力なり」、知っていることを増やすにこしたことはありません。


さて、ロシアについての知識を仕入れよう!と思った方は、興亡の世界史シリーズの「ロシア・ロマノフ王朝の大地」をおススメいたします。

ロシアという国が、ずっと「ロシア」であったことが分かる名著だと思います。

少し古いですが、「国際秩序 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ」も、大まかな国際政治の動きをつかむ上では参考になります。


話はそれますが、少し前に「サピエンス全史」「ホモ・デウス」という本が流行りましたね。

しかし、私はそこに示される内容にあまり乗れませんでした。

その理由を、批評家の東浩紀さんが分かりやすく表現されていたので、そちらも紹介しておきます。

ところでときどき言っていることだけど、ハラリは「ホモ・デウス」(2015)で人類は戦争と感染症と飢餓を克服しつつあるって書いているんですよ。それが世界的ベストセラー。でもその直後にcovidで今度はこの戦争。2010年代の人類がいかに傲慢で愚かだったか、よくわかる話だと思います。

東浩紀

ハラリがウケたのは、人々が見たい人類の未来を見せてくれたからだと思います。でもそれは現実ではない。

東浩紀

思想界にも多大な影響がありそうです。

ともあれ、今起こっていることは、遠い世界の出来事ではありません。

皮肉にも、時代が常に過渡期であることを思い出させてくれたのが今回の事態です。

情報をしっかりと捉えながら、戦争にはNOをたたきつけます。