高校古文:物名歌の確認問題

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

本日は、「物名歌」についての確認問題を配信いたします。

「物名歌」は、「ぶつめいか/もののなのうた」と読み、「隠題歌(かくしだいか)」とも呼ばれるものです。

原則として、以下の3点をおさえた上で、確認問題に取り組んでいきましょう。

①和歌の意味に関係なく
②掛詞的に物の名前を隠して詠みこんだもので
③二単語以上にまたがることが多い

確認問題

1、傍線の歌は「物名歌」といい、必ず物の名が詠みこまれている。その部分を歌中の表記のまま抜き出して記せ。(成蹊大学)

亭子の帝、鳥飼の院におはしましにけり。例のごと、御あそびあり。「このわたりのうかれ女ども、あまた参りて候ふなかに、声おもしろく、よしあるものは侍りや。」と問はせ給ふに、うかれ女ばらの申すよう、「大江の玉淵がむすめというものなむ、めづらしき。まゐりて侍る。」と申しければ、見させ給ふに、さまかたちも清げなりければ、あはれがり給ひて、上に召しあげ給ひて、「そもそもまことか。」など問はせ給ふに、鳥飼といふ題を、みな人に詠ませ給ひにけり。仰せ給ふやう、「玉淵は、みならうありて、歌などよく詠みき。この鳥飼といふ題をよくつかうまつりたらむに、まことの子とは思ほさむ。」と仰せ給ひけり。うけたまわりて、すなはち、

あさみどり かひある春に あひぬれば 霞ならねど 立ちのぼりけり

と詠む時に、帝のののしりあはれがり給ひて、御しほたれ給ふ。

*亭子の帝:宇多天皇

*鳥飼の院:今の大阪府摂津市にあった離宮

*うかれ女ども:歌舞伎芸能を専門とした女たち

*らうありて:ものなれていて


2、《   》に入れるのに、最も適当と思われるものを、次の中から選べ。(立命館大学)

*本文は1と同じ

《   》 かひある春に あひぬれば かすみならねど たちのぼりけり

1:ぬばたまの

2:あさみどり

3:もろともに

4:はなざかり

5:かりそめの


3、Xの和歌に使われている修辞について、次の( A )~( C )に適当な語を記入せよ。(西南学院大学)

なまいどみてものなどいふ人のもとより、蔦のいみじくもみぢたる葉に、「これはなにとか見る」とて、おこせたりければ、かくいひやる。

X 憂き名のみ 龍田の川の もみぢ葉は もの思ふ秋の 袖にぞありける

龍田には動詞の( A )が掛けられ、同時に( B )が詠みこまれている。後者の修辞は物名と言う。例えば「来べきほどときすぎぬれや待ちわびて鳴くなる声の人をとよむる」という歌の場合は、( C )という鳥名が詠みこまれているのである。


4、《   》部「宇治川・藤鞭・桐火桶・頼政」とあるが、実はこの中で、「隠し題」(「物名」ともいう。物の名を他の語句に隠して詠むこと)としては詠んでいないものがある。それはどれか。次の中からもっとも適切なものを一つ選べ。(上智大学)

鳥羽院御時に、《宇治川・藤鞭・桐火桶・頼政》と四題を下させ給ひ、「一首に隠してまゐらせよ」と勅定ありけるに、

宇治川の 瀬々の淵々 落ちたぎり 氷魚けさいかに 寄りまさるらん

と申したりければ・・・

a:宇治川

b:藤鞭

c:桐火桶

d:頼政

*藤鞭(ふじぶち):藤蔓で作った鞭

*桐火桶(きりびおけ):桐の幹をくり抜いて作った火鉢

*氷魚(ひお):鮎の稚魚。琵琶湖や宇治川で冬に多く収穫される。

解答・解説

1、どりがひ

お題を出して和歌を詠ませることを題詠と言います。

ここでは、「鳥飼」を詠みこむように言われていますね。

この文章は物名歌を出題する際の頻出文章なので、ストーリーを覚えておいてくださいね。

《宇多天皇が、鳥飼の院においでになった。いつものように、管弦の催しが行われた、「このあたりの遊女たちが、たくさん参上してお仕え申し上げる中に、声が趣深く、風情のあるものはございますか。」とお尋ねになると、遊女たちが申すには、「大江の玉淵の娘と申すものがめずらしく参上してございます。」と申しあげたので、御覧になると、姿や顔かたちも美しかったので、しみじみと感動なさって、殿上にお呼び上げなさって、「玉淵の娘というのは本当か。」などお尋ねになると、「鳥飼」という題で、その場にいる人皆に詠ませなさった。おっしゃることに「玉淵は、何事にも物慣れていて歌などを上手に詠んだぞ。この鳥飼という題をうまく詠み申し上げたならば、『玉淵の本当の子』とお思いになろう。」とおっしゃった。うけたまわって、すぐに 薄緑色にかすむ、生きがいのある春のような帝に巡り合いましたので、私は霞ではないのだけれども霞が立ち上るように帝の御殿に上ることができたのでございますよ。 と詠むときに、帝は大声で騒ぎ感動なさって、涙をお流しになる。》


2、2

「あさみどり…」の和歌、えらく洒落た訳し方になってますね?

直訳しちゃうと、「自然」ばかりを詠んだ和歌になってしまいますからね。
良い和歌は裏に心情を詠みこむのが常ですから、帝が泣いていることから考えても、心情を踏まえて訳してあげなくてはいけません。


3、A:立つ B:蔦 C:ほととぎす

和歌への導入部をきちんと掴めていれば、詠み手の頭が芳しくない場合を除いて、「蔦」について詠みこまれているのは自明です。

「たつ」は「立つ」と「龍田山」の「たつ」との掛詞ですから、ここは暗記で処理しましょう。

「つらい評判ばかりが立つという龍田川」となり、「たつた」の中に「蔦」が詠みこまれていますね。

Cは「鳥名」というヒントで気づきたいところです。

《ちょっと気をひこうとして恋文などをやる女のところから、蔦がたいそう紅葉した葉に「これを見てどう思うか」と言ってよこしたので、男はこのように言った。 X:つらい評判ばかりが立つ私にとって、この龍田川のもみじの葉の鮮やかな色は、物思いに泣く血の涙で染まった私の袖の色と同じなのでありましたよ。》


4、a

宇治川、隠れていませんよね笑

上智大学…。

《鳥羽天皇の御代に、宇治川・藤鞭・桐火桶・頼政の四題をお与えになり、「一首の歌の中にこの題を隠して詠んで献上せよ」と天皇のご命令があったので、 宇治川の多くの瀬の淵々に水が激しく流れ落ちて、氷魚は今朝どれほど多く寄り集まっているのだろうか。 と申し上げたので、・・・》