高校古文:見立ての確認問題
広島国語屋本舗現古館 館長の小林です。
さて、メインとなってくる修辞法は一通り終えました。
あとは出題頻度としては少し落ちる、その他の修辞法についてまとめていきましょう。
今回扱うのは、「見立て」。
これは端的に言えば、比喩のことです。
実際の入試問題での問われ方を見た方が分かりやすいと思いますから、さっそく確認問題に入っていきましょ
確認問題
1、この歌に使われている、和歌特有の表現技巧を、次のア~オの中から選べ。(聖心女子大学)
み吉野の 山辺に咲ける 桜花 雪かとのみぞ あやまたれける
ア:掛詞
イ:序詞
ウ:見立て
エ:体言止め
オ:縁語
2ー1、《 》部①「からうた」の意味として最も適当なものを次のイ~ホから一つ選べ。
イ:空歌
ロ:韓詩
ハ:辛辣な歌
ニ:形式的な歌
ホ:漢詩
2-2、《 》部②「雪」、③「花」は、次のように説明される。説明文の空欄( a )( b )に適当な語句を入れなさい。
「ある人」の詠んだ歌(A)は、白い( a )を「雪」に見立てたもので、「人」の詠んだ歌(B)は、白い( a )を早春の「うぐひす」に寄せて、( b )の「花」に見立てたものである。
(2題ともに関西学院大学)
『土佐日記』(承平五年一月十八・十九・廿日)の記事
十八日。なほ、同じ所にあり。海荒ければ、船出ださず。この泊、遠く見れども近く見れども、いと面白し。かかれども、苦しければ、何ごとも思ほえず。男どちは、心やりにやあらん、からうたなどいふべし。船も出ださで、いたづらなれば、ある人の詠める、
(A)磯ふりの 寄する磯には 年月を いつとも分かぬ 雪のみぞふる
この歌は、常にせぬ人の言なり。また、人の詠める、
(B)風に寄る 波の磯には うぐひすも 春もえ知らぬ 花のみぞ咲く
解答・解説
1、ウ
訳を見れば、桜の花を雪にたとえていることは一目瞭然ですね。
吉野は奈良県の地名で、山深いために春の訪れが遅い土地です。
さらに春は桜、冬は雪の名所となっています。
桜が満開で最高なんだけど、次の日起きて見たら大雪で全部散っちゃって悲しい…なんて話もあるくらいです。
《吉野山のほとりに咲いている桜の白い花を雪ではないかとつい見間違ってしまったよ。》
2ー1、ホ
2-2、a:波 b:梅
《十八日。この日もやはり同じところにいる。海は波が荒れているので、船を出さない。この港は、遠くから見ても近くから見ても、たいそう景色がすばらしい。景色はすばらしいのだけれども、(船旅が思うようにはかどらず)つらくて、景色に応じたこれといって気の利いた歌も思い浮かばない。同じ仲間の男たちは、気晴らしであろうか、漢詩などを朗詠しているようだ。船も出さないで暇なので、ある人が詠んだ歌は、 (A)荒波が打ち寄せる磯には一年中どの季節の区別もできない白い雪ばかり降っていることよ。 この歌は、普段、歌を詠まない人の歌である。また、別のある人が詠んだ歌は、 (B)風によって打ち寄せる波が砕け散る磯には、鶯も春を知ることができない花ばかりが咲いていることだ。》
訳せてさえしまえば、解答を導くのは容易だったかもしれません。
「からうた:漢詩」は基礎的な知識なので知っておきましょう。
海岸に打ち寄せる「波」を、白いという共通点から「雪」「梅」に見立てているわけですが、「梅」を出すのは少し難しいです。
古文の世界で「花」と言われた場合は、条件付けが無ければ「桜」だという前提がありますからね。
しかし、今回は「鶯」というキーワードがあります。
「梅に鶯」は「よく似合っているもの」を示すことわざで、花札の役になっていたりします。
紅葉に鹿、牡丹に蝶、柳に燕、松に鶴、竹に虎、竹に雀、猿に絵馬、牡丹に唐獅子、波に千鳥などもそうです。
教科書によっては載っている、「大鏡」のエピソード「鶯宿梅」で知っている人もいたかもしれません。
天皇が、とある女性の家に植わっている立派な梅の木をもってこい!と言う。
すると女性が、「んなことしたら鶯がわしの家どこ?って聞いてくるわよ」っていう和歌を詠んだ。
天皇感動、梅の木はそのまま、わっしょいわっしょいっていう話です。
「古典常識」と一口に言っても、どこまでを常識の範疇に入れるかは難しいですが、バカにはできません。
なぜなら、その常識の基準を決めるのは大学側だからです。