高校古文:縁語をみつけてみよう②
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
本日は、掛詞をヒントとして縁語を発見する練習問題を4題配信いたします。
縁語の原則に立ち返りながら、チャレンジしてみてください。
みつけてみよう
1、君が行く 越の白山 知らねども 行きのまにまに 跡はたずねむ【掛詞】
2、消えはてて やみぬばかりか 年をへて きみを思ひの しるしなければ【掛詞】
3、日にそへて うさのみまさる 世の中に こころつくしの 身をいかにせむ【掛詞】
4、ふねも往ぬ まかぢも見えじ 今日よりは うき世の中を いかでわたらむ【掛詞】
*頻出の歌物語、「大和物語」の一節。
下野国に夫婦が暮らしていたが、男が新しい女をつくって出て行ってしまう。
家を移る際に、ふね(馬ぶね=飼葉桶:馬の餌を入れる食器)以外の荷物は、みな新居にもっていってしまう。
さらに男は、残しておいた「ふね」までも、「まかぢ」という名前の召使に取りに行かせる。
そこで女は上のような和歌を詠んだ。
和歌を聞いた男は、彼女の辛い心境を哀れんで女のもとに帰ってくる。
解答・解説
1、「白根」と「雪」が「越の白山」の縁語
まずは、「君が行く越の白山」の「しら」と、「知らね」の「しら」が、音の反復で序詞です。(異説あり)
序詞を発見する際のヒントは、比喩を表わす「の」がある場合、音の反復がある場合、掛詞がある場合でした。
今回は、掛詞をヒントとして縁語をみつける練習ですから、掛詞を疑ってみましょう。
すると「行き」と「雪」が掛詞であることは想像がつくと思います。
ただ、ここでは「知らね」と「白根(新潟県の山の名前)」も掛詞になっており、ここはとるのが難しかったかもしれませんね。
さて、序詞の中にある「越の白山」が中心語です。
掛詞を用いる縁語の場合、表に出ていない語とそれ以外の語、表に出ていない語同士が縁語になりますから、今回は掛詞の表に出ていない語、「白根」と「雪」が中心語「越の白山」の縁語ということになるじゃないか。
本来訳さなくても意味が通る「白根」「雪」も「詠みこんだ」訳を下に示しておきますから、よくよく「読みこんで」おいてくださいね。
〈あなたが行く越の国(北陸地方)の白山であるところの白根山のその名の通り、私はそこを知らないのだけれども、雪に残ったあなたの足跡が行くとおりについていって訪ねてみよう。〉
2、「消え」は「火」の縁語
掛詞パターンだと判明していますから、まずは掛詞になりそうな語を探しましょう。
今回の和歌でも掛詞を訳出することなく意味は通るのですが、入試同様、問題文にちゃんと誘導があるから、それに従って修辞法のあたりをつけていけばいいわけですね。
覚えておきたい掛詞である「思ひ」と「火」を見つけられたでしょうか。
掛詞を用いた縁語の場合、表に出ていない語とそれ以外の語、表に出ていない語同士が縁語になるんでした。
掛詞の表に出ていない語「火」を中心に考えてみると、縁語は「消え」一択ですね。
ただ、掛詞を用いる縁語については、どこが中心語かということは、はっきりとは決まりがないので、意味ベースで捉えていく必要があります。
今回は「消え」と「火」だから、「火が消える」ということで「火」を中心語として問題ありません。
どこが中心語か分からない場合は、「火」と「消え」が縁語、とだけ示せればいいから、難しく考えすぎないでくださいね。
1と同じように、訳出しなくても意味の通る「火」を踏まえて訳しておきますので、確認しておいてください。
〈長い年月をかけて、あなたを燃え盛る火のように思い続けてきた効果がないので、それこそ火が消えるように、私はこの世から消えてしまって終わるだけなのだなぁ。〉
3、「宇佐」と「筑紫」が縁語
「宇佐:大分県」と「憂さ」、「筑紫:福岡県」と「尽くし」が掛詞だということに気づけさえすれば終わりです。
表に出ていない語「宇佐」と「筑紫」が縁語になりますね。
地名どうし中心語を設定しようがないので、ここは縁語だけ示せばよいです。
ちなみに、これは継子いじめの物語「落窪物語」からとっている。
「こころづくし」は、現代では「行き届いた配慮」のような+イメージだが、古語では「あれこれ思い悩む」という-イメージなので注意しておこう。
〈日が経つにつれて、辛さばかりが増す世の中に、様々な思い悩む我が身をどうしたらよいのだろうか。〉
4、「まかぢ」と「うき」と「わたら」が「ふね」の縁語
この和歌については設定が分からないとどうにもならないので、設定を示しています。
そこを読めば理解できると思いますが、「ふね」が「舟」と「(馬)ぶね」、「真楫(舟を漕ぐ際に用いる楫の美称)」と「まかぢ」、「浮き」と「憂き」が掛詞ですね。
さて、掛詞を用いた縁語では、表に出ていない語とそれ以外の語、表に出ていない語同士が縁語になるんでした。
掛詞の表に出ていない語は、「舟」「真楫」「浮き」で、「舟のイメージ」で縁語だと分かると思います。
「わたら」は掛詞以外の語だけど忘れずにおさえておきたいところ。
中心語は明らかに「舟」ですが、縁語であることだけ示せていれば十分合格です。
〈馬ぶねも行ってしまった。まかぢも姿を見せないだろう。今日から私は辛い世の中をどうして渡ったら(過ごしたら)よいのだろうか。〉