高校古文:縁語の原則/縁語をみつけてみよう①

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

これから数記事に渡って、和歌の修辞法の最難関ともいえる「縁語」について扱っていきます。

まずは縁語の原則をご紹介しますが、これまでやってきた修辞法の知識も多分に含まれていますから、しっかりと復習しながら進めていきましょう。

縁語の原則

・中心とする語から

・連想される言葉を詠みこみ

・おもしろみを出そうとする修辞法

上記が縁語の定義なのですが、あまりにも主観の世界の話すぎて、「納得いかない!」という人もたくさん出てきそうですね笑

縁語は、序詞・枕詞・掛詞を利用した修辞法ですから、これまでやってきたものと比べて格段と難しいので、しっかりと時間をかけてマスターしていきましょう。

見つけかたのポイントは以下の通りです。


①縁語がある和歌の中に序詞、枕詞があれば、その中に縁語がある

②①の場合、序詞・枕詞の部分とそれ以外の部分が縁語になる。(例外アリ)

③掛詞を用いた縁語の場合、主題は人間であるため、自然の側が縁語になる。

④掛詞を用いた縁語の場合、掛詞の表に出ていない語と掛詞以外の語、掛詞の表に出ていない語どうしが縁語となる。

⑤和歌に序詞、枕詞、掛詞が無ければ縁語はないとみる。(比喩がある場合は、比喩の語が中心語になる。)


文字で書かれてもさっぱりでしょうから、パターンごとに説明していきますね。

みつけてみよう

1、由良の門を わたる舟人 楫を絶え 行方も知らぬ 恋の道かな【序詞】

2、難波江の 蘆のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき【序詞】

3、初雁の はつかに声を 聞きしより 中空にのみ ものを思ふかな【枕詞】

4、梓弓 はるたちしより 年月の 射るがごとくも 思ほゆるかな【枕詞】

解答・解説

1、「行方」と「道」は「わたる」の縁語

「序詞の原則」で既に扱った和歌なので、序詞の説明は省略しますね。

さて、今回は序詞が縁語を導くパターンですが、ここでは序詞の中にある「わたる」が中心語になります。

ここから、移動しているイメージを連想し、「行方」と「道」を縁語だと判断します。

ただ、移動=旅のイメージだと、「門」「舟人」「楫」も縁語になりそうですよね。

しかし、序詞が縁語を導く場合、序詞の部分とそれ以外の部分が縁語になります。

よって、序詞の中にある「門」「舟人」「楫」は縁語にはなりえないのです。

序詞には「自然について説明する部分」と「人間について説明する部分(主題)」がありましたよね。

それぞれが一つの意味のまとまりになっているので、その中に出てくる語は全て必然的に出てくる語で、「あえて」詠みこんでいるテクニックだとは見なさないのです。

〈流れの速い由良の海峡を漕ぎ渡っていく舟人が、楫を失って行方も知らず漂うように、あなたに逢う手立てを失ってこの先どうなるかわからない私の恋の道だなぁ。〉


2、「刈り根」と「一節」は「蘆」の縁語/「澪標」と「わたる」は「難波江」の縁語

この和歌の序詞も既に「序詞の原則」でやっているので、説明は省略します。

序詞内の言葉と、それ以外の部分の言葉で連想ゲームをしてみましょう。

すると「難波江」が中心語で、航海しているイメージの「澪標」と「わたる」が、「刈り根」が中心語で、植物のイメージの「一節」と「蘆」が見つけられるかと思います。

〈難波の入り江に生えている藻の刈り残した根の一節のような、そんな短いあなたとの浮気の一夜の仮寝のせいで、この入り江の澪標ではないが、この身を尽くしてこれからもあなたを恋し続けなくてはならないのでしょうか。〉


3、「中空」は「初雁」の縁語

序詞、枕詞の中にある語が中心語、とお伝えしました。

序詞の中に縁語がある場合は、序詞そのものが長いので、見つけ辛いことがあるかもしれませんが、枕詞はそれと分かれば中心語が確定するのでかなりお手軽だと思います。

枕詞は初句、第三句のみを確認すれば良かったですから、ここでは「初雁の」が枕詞だというのはすぐ判断が付くでしょう。

「初雁」が中心語であることが分かれば、鳥類のイメージで「中空」を見つけられるはずです。

〈あなたの声をほのかに聞いてからというもの、私の心はもう上の空であなたのことばかり恋い慕っていることだなぁ。〉


4、「張る」と「射る」は「(梓)弓」の縁語

「梓弓」が中心語だと判断できれば、弓のイメージで「張る」と「射る」はすぐ見つかると思います。

〈春になってから年月が経つのが、弓矢で射るように早く感じるなぁ。〉