高校古文:枕詞の原則
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
今回から、枕詞についてお伝えしていきます。
ここまでやってきた掛詞や序詞と比べると、暗記だけで型がつく分野なので、しっかり得点源にしていきましょう。
枕詞の原則
・ある語を導き出すための飾りの言葉で
・主に5音をとり(稀に4音)
・初句か第3句に現れる
*飾りの語とは言っても、訳出する場合もあるので注意が必要です。
以下の和歌を見てみましょう。
春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山
ここでは、「白妙の」が「衣」を導く枕詞になっているのですが、「真っ白な衣を干すとかいう天の香具山」という風に、「白妙の」を「真っ白な」と訳出していますよね。
ほぼ訳出しないでよい、くらいに捉えておくのが良いでしょう。
そもそも昔の人は、和歌を詠んでそのまま理解していたわけですし、「枕詞」という決まり文句が日常的に使われていく中で、元は実質的な意味のあった言葉をわざわざ訳さなくても理解できるようになっていったのだと考えるとわかりやすいと思います。
導く語との関係は以下の3つです。
①意味のつながりで下の語に続き、導く語を修飾する
②導く語が掛詞になる
③導く語と音が反復して下に続いたりする
確認問題
問:以下の和歌に用いられている枕詞と、それが導いている語を指摘しなさい。また、枕詞と導かれる語との関係を、①修飾②掛詞③音の反復の中から選びなさい。
①人もなき むなしき家は 草枕 旅にまさりて くるしかりけり
②梓弓 はる山近く 家居れば つぎてきくらむ うぐいすの声
③いその浦に つねよびきすむ 鴛鴦の 惜しきあが身は きみがまにまに
解答・解説
1、「草枕」が「旅」を導く枕詞 / ①
まだ暗記しておくべき枕詞も教えられていないのにわかるわけない!と思った方もいるかもしれませんが、解くためのヒントはもう手にしているはずです。
枕詞は、初句か第三句に表れ、ある特定の語を導くんでした。
「人もなき」と「草枕」であれば、「草枕」の方が枕詞っぽくありませんか?(語感だけかもしれません笑)
「草枕」が枕詞だろうとあたりをつけておいて、どの語を導いているかを考え始めてほしいのです。
草を枕にするしかない状況って、私たちの生活ではあまり考えられないわけですが、あるとすれば野宿をするときくらいですよね。
では、野宿をするシチュエーションって…?
そう、「旅」の途中ですよね。
「草枕をする旅」という形で「修飾」をしているわけです。
人もいないむなしい家は、旅よりもまさって苦しいことだよ。
「草枕」って防御力低めじゃないですか?
そりゃテンピュールの高級枕と比べれば低いかもしれませんが、草を何層にも重ねると想像以上の柔らかさが出るはずですよ。
首元はわしゃわしゃしそうですが…。
ちなみに私は、大学時代の研究の一環で冬場の段ボールの暖かさを知りました。
ですから、草枕であっても快眠&体力全回復でいけると思います。
せっかく「草枕」という単語が出てきたわけですし、夏目漱石の「草枕」も読んでみてはいかがでしょうか・
2、「梓弓」が「はる」を導く枕詞 / ②
雑学でしかありませんが、「梓」はヨグソミネバリという植物で、「春」に花を咲かせ、弓を「張る」のに使われます。
よって、「春」と「張る」という掛詞を導いているということになりますね。
春山に近く家を構えて住んでいるので、今頃はしきりに聞いているだろう、鶯の声を。
3、「鴛鴦の」が「惜し」を導く枕詞 / ③
「鴛鴦」の「おし」と「惜し」が音の反復になっていますね。
問題としてはここだけ気づければ及第点なのですが、もう一歩踏み込んでみましょうか。
同音の反復があり、前半に自然・後半に人間の心情という構図は、どこかで見覚えがありませんか?
「序詞」ですよね。
つまり、「いその浦につねよびきすむ鴛鴦の」が「惜し」を導く序詞になっているのです。
枕詞はほぼ訳すことはありませんが、今回のように序詞の中に枕詞が含まれる場合は訳さないと意味が通らないことが多いので注意しておこう。
庭の池の磯辺にいつも呼びかわしながら来て住みついている鴛鴦ではないけれども、その「おし」という言葉のように残念な私の身の上ではありますが、あなたの御心次第でどのようにでもなさってください。
「鴛鴦」って和歌によく出てきますけど、どんな鳥なんですか?
こんな鳥です。

2匹の模様が全然違うのはなんでですか?
左の派手な方がオスで、右の地味な方がメスです。
メスへの求愛行動の一環として、模様が派手になるのですね。
クジャクみたいなものでしょうか。
つがいで行動することが多い習性から、「おしどり夫婦」という言葉にあるように、夫婦仲睦まじい鳥として知られています。
ただ、実際には繁殖期が終わると夫婦関係は終了し、次の繁殖期がくると別のメスとくっつくらしいのです。
つがいでいるのが多いというのも、ただ単に別のメスを連れているだけという、なんとも夢のないお話ですね。
カモみたいな見た目をしているので(実際にカモ目カモ科)水辺にいることが多いように思われるかもしれませんが、木の枝で休んでいることが多いといいます。
