高校古文:掛詞の確認問題①
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
今回から複数回に分けて、掛詞についての確認問題をやっていきましょう。
確認問題
1、次の歌に用いられている修辞技法を選べ。(宮崎大学)
ませのうちなる しら菊も
うつろふみるこそ あはれなれ
我らがかよひて 見し人も
かくしつつこそ かれにしか
①掛詞
②枕詞
③本歌取り
④序詞
2、以下の和歌には掛詞が用いられている。同じように掛詞が用いられた和歌を2つ選べ。(東洋大学)
君なくて けぶり絶えにし 塩竈の うらさびしくも 見えわたるかな
1、春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
2、足びきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む
3、わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしてぞ 会はむとぞ思ふ
4、ちぎりきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波こさじとは
5、忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
6、大江山 いく野の道の とほければ まだふみもみず 天の橋立
7、夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 秋風ぞ吹く
3、「うき」は掛詞である。掛けられている意味を、それぞれ漢字一字で答えよ。(明治大学)
いかでかく 巣立ちけるぞと 思ふにも うき水鳥の ちぎりをぞ知る
4、次の傍線部の和歌の掛詞の説明を選べ。(早稲田大学)
月のいみじう明きに、ふるさとをおぼし出でて、
もろともに ながめし人も われもなき 宿には月や ひとりすむらん
①初句の「もろともに」に「友」の意が掛けられている。
②二句の「ながめ」に「眺め」と「長雨」の意が掛けられている。
③三句の「なき」に「亡き」と「泣き」の意が込められている。
④五句の「ひとり」に「人」の意が掛けられている。
⑤五句の「すむ」に「住む」と「澄む」の意が掛けられている。
5、和歌に用いられる掛詞について、掛詞となっている部分を原文の平仮名表記のまま指摘したうえで、掛けられている2つの意味が分かるように、それぞれ適宜漢字を当て、記入せよ。なお答えは、解答例を参考にせよ。(早稲田大学)
なみださへ しぐれにそへて ふるさとは もみぢのいろも こさぞまされる
〈解答例〉
あきののに ひとまつむしの こゑすなり
われかとゆきて いざとぶらわむ
「まつ」に、「松」と「待つ」とが掛けられている。
解答・解説
1、①
一目見て、「短歌」でないことはわかったと思います。
七五調を四回繰り返す形がワンフレーズとなる「今様」という歌曲です。
結局のところ「歌」詞ですから、和歌に用いられる修辞技巧が出てきます。
ここでは、「しら菊も」「見し人も」の対応関係に気づきましょう。
そうすると、覚えておきたい掛詞〈枯る/離る〉が見つかります。
垣のうちにある白菊も、色褪せていくのを見るのは悲しいことだなぁ。私が通って一緒になったあの人も、このようにしながら、私から心が離れていったことだよ。
2、3・6
まずは、示された和歌を見ていきましょう。
歌枕として有名な「塩竈の浦(宮城県)」の存在には気づいておきたいところです。
ここに「自然」を発見し、「さびしく」から「人間」の心情である「心(うら)」を導きます。
覚えていれば一撃ですが、覚えていない場合を想定した解説です。
解答の和歌は、以前訳出しているので、掛詞の指摘に留めます。〈「掛詞をみつけてみよう」を参照〉
あなたが亡くなって塩を焼く煙も絶えてしまった塩竈の浦をまねた庭のように、心寂しく一面に見渡されることだなぁ。
3→「みをつくし:澪標/身を尽くし」
6→「いく:行く/生野の〈生〉」「ふみ:文/踏み」
塩竈の浦ってどんなところなんですか?

塩竈の浦は、別名千賀の浦とも言い、日本三景「松島」の南西部に位置する多島海です。
奈良時代に、東北の軍事・文化の拠点となった多賀城が置かれた場所でもあり、都から多くの人がこの地へとやってきました。
海無し県である奈良から来た人たちの目には、塩竈の地から連なる島々が、とても物珍しく風情のある場所として映ったことでしょう。
なるほど、港町として栄えた場所なんですね?
そうそう。
ちなみに、港町っていうのは荒くれものたちが集まりやすい土地らしく、軍港として栄えた広島の「呉」もデンジャラスな土地だったみたいですね。
「仁義なき戦い」という、本当に仁義がないヤクザ映画があるんですが、そのモデルになった組が存在した土地でもあります。
今もそうなんですか?
今は「海軍カレー」と「黒ビール」がおいしい素敵な街ですよ。
もっと言うと、塩竈も昔は荒くれものが多かったようで、神田愛山先生の「天保水滸伝~ボロ忠売り出し~」の中に、「塩竈の丹治」という賭場の胴元が出てきます。
面白いのでぜひ聞いてみてください。
3、浮・憂
まず、「と思ふ」に注目しましょう。
「いかでかく巣立ちけるぞ」が「人間」の心情ですね。
ここから、「憂き」は導けると思います。
では、「自然」の関連語は何でしょうか。
「つらい水鳥」は意味不明ですから、水鳥が「浮き」と想像がつくはずです。
こちらも、覚えていれば一撃でした。
どうしてこのように巣立った(成人した)のだろうかと思うにつけても、水に浮かぶ不幸せな水鳥のような運命を思い知ることです。
4、⑤
直訳ぎみに訳してみると、「一緒に(月を)眺めた人も私もいなくなった宿に、月が一人で住んでいるのでしょう」となりますが、「月が宿に住む」というのは明らかに比喩表現ですよね。
ですから、月から連想して「澄む」を導きます。
暗記すべき掛詞だからといって、②を選んでしまってはいけませんよ。
和歌を解釈する際に、文脈を考慮せずに読んでしまう人は意外と多いと思います。
ここでは、「月のいみじう明きに」という前提条件を忘れないようにしましょう。
月がたいそう明るい夜に、もとの住まいを思い出しなさって、
一緒に(この月を)眺めた人も私もいなくなったあの家では、月がたった一人で住むように今夜も澄んでいるのでしょう。
5、「ふる」に、「降る」と「古る」とが掛けられている
(「ふるさと」に、「降る」と「古里」とが掛けられている)
直訳ぎみに訳してみると、「涙すらも時雨に加えて降る」となるので、「降る」は漢字に変換できると思います。
しかし、「涙すらも時雨に加えて降る里では、紅葉の色の濃さが~」という訳はさすがに不自然ですよね。
訳の不自然さは、掛詞登場の合図です。
「昔住んでいた場所」を示す、「古る里(古里)」に思い至れれば完璧です。
覚えておきたい掛詞として処理してもいいですし、他に掛詞になりそうな場所がないから「降る/古る」という消極的選択でも解答は導けると思います。
「ふるさと」には「旧都」という意味もあるので、こちらもおさえておくとキュートです。
涙までもが、時雨に加えて降る、かつてあなたが住んでいた家では、紅葉の色の濃さがより一層増しているのです。