高校古文:掛詞の原則
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
こちらでは、「掛詞」の知識についてまとめていきます。
覚えておきたい掛詞についても列挙しておきましたので、そちらも暗記しておきましょう。
掛詞の原則
定義:一つの音に、意味を二つ以上かける
《視点》
①直訳が不自然になるところを疑う
②ひらがなで表記されているところを疑う
③自然/人間 の関連語がかかっていることが多い
《注意点》
①文法的に間違っている場合は掛詞でない
②訳に無関係なものは掛詞でない
③単語の一部とだけかかる場合がある
④清音・濁音は問わない
*後述する暗記すべき掛詞以外は、和歌の前後から類推する
《訳出》
―― という/ではないが/のように を使うことが多い
(例)
風吹けば 沖つ白波 たつた山 夜半にや君が ひとり越ゆらむ
風が吹くと、沖の白い波が立つ(盗賊が出る)という竜田山を、こんな夜中にあなたは一人で越えているのでしょうか。
「白い波が立つ」を「盗賊が出る」と訳してるのはどうしてですか?
私は横山光輝先生の漫画「三国志」の大ファンなのですが、後漢末期に「黄巾の乱」という反乱が起こるんですね。その反乱は結局鎮圧されて、三国時代に入っていくのですが、黄巾党の残党もちらほら生き残っているわけです。彼らが立てこもった場所が「白波谷(はくはこく)」だったので、そのまんま「白波賊」と名付けられました。それが日本に伝わって定着した、というのが、「白波=盗賊」の由来のようです。
安直ですね?
手厳しいね…。
ちなみに、近年「講談」という伝統芸能を盛り上げている一人に、6代目神田伯山先生がいます。彼のYoutubeに、「東玉と伯圓」という演目が上がっているのですが、そこに出てくる神田伯圓が、「白波物」という盗賊が主人公の話を得意としていました。それを、日本史でも登場する河竹黙阿弥が歌舞伎に取り込んで、数々の名作が世に出たわけです。特に、2代目河竹黙阿弥の作、「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」、通称「白波五人男」は、戦隊ヒーロー物の走りともいわれ、現代の著作に大きな影響を与えています。
覚えておきたい掛詞
・あかしー明石/明かし
・あきー秋/飽き
・あふー「逢」坂/逢ふ
・あまー天/海人(海女)/尼
・いはー「石」清水/言は
・うしー宇治/憂し
・うきー浮き/憂き
・うくー浮く/憂く
・うらー浦/心
・おきー隠岐/置き
・かるー枯る/離る
・こー籠/子
・すみー「住」江/住み/澄み
・すむー澄む/住む
・たつー「立」(竜・龍)田山/立つ
・ながめー長雨/眺め
・ひー火/思ひ
・ひとりー火取(り)〈香炉のこと〉/一人
・ふるー降る/経る〈ハ下二・体〉(古る・旧る〈ラ下二〉)
・まつー松/待つ
・みー実/身
・よるー夜/寄る
確認しておきたい掛詞
◎あくー明く/飽く
・あくるー明くる/開くる
・あしー葦(蘆・芦)/悪し
・あすー飛鳥の「あす」/明日
◎あふひー葵/逢ふ日
◎あふみー近江/逢ふ身
・あふみちー近江路/逢ふ道
◎あめー雨/天
・あめのしたー雨の下/天の下
◎あやめー菖蒲(五月五日の節句に用いる)/文目(物事の道理・筋道)
・あらしー嵐/あらじ
◎いくー「生」野/幾/行く/生く
◎いかー五十日(子どもの誕生から五十日目の祝い)/「いか」に
◎いなばー因幡/往なば
◎いはてー磐手/言はで
・いふー夕/結ふ/言ふ
・いねー稲/往ね
◎いるー入る/射る
・うさー宇佐/憂さ
・うつりー映り/移り
・うみー海/憂み(語幹用法:つらいので)
・うらみー裏見/恨み
・えにー江に/縁
・おほえー大江/覚え
・おきー沖/燠(炭火)
◎おくー置く/起く
・かけ:掛け〈車に牛をかける〉/懸け
◎かげ:鹿毛〈馬の茶色の毛〉/影(陰)
◎かた:「交」野/「難」し
・かた:潟/方
・かたみ:片身/形見/難み
・かは:川/彼は
・かひ:甲斐〈地名or効果〉/峡/貝/効
・かへる:蛙/帰る
・かみ:紙/神
・から:「唐」松/から〈格助詞〉
・かり:狩り/刈り/借り/仮
◎からごろも:狩衣/借り衣
・かりね:刈根/仮寝
・き:来/「着」る
・きく:菊/聞く
・きし:岸/来し
・きみ:黄実/君
・きる:霧る/着る
・くる:繰る/来る
◎くものうへー空の上(空)/雲の上〈宮中〉
・くもゐー空/宮中
◎けさ:今朝/袈裟
・こがる:漕がる/焦がる
・こと:琴/「殊」に
・このみ:木の実/此の身
・こひぢ:泥(小泥)/恋路
◎さす:射す〈光があたる〉/鎖す〈門戸を閉じる〉
・しか:鹿/然〈そのように〉
・しも:霜/しも〈副助詞〉
◎しもと:霜と/笞〈ムチ〉
◎しら:「白」河/知ら
・すぎ:杉/過ぎ
・すみよし:住吉/住み良し
・する:「駿」河/する
・せ:瀬/背/「狭」し
・そこ:底/其処
・そむ:染む/初む
◎そる:逸る〈飛び去る〉/剃る
・たか:「高」野/「高」し
・たび:旅/度
・たびね:日根/旅寝
・たち:橘/立ち
・たちかへり:立ち返り/立ち帰り
◎たつ:裁つ/立つ(発つ)
・たむけ:手向山/手向け〈神仏へのお供え物〉
・つき:月/尽き
・つく:付く/着く/尽く
・つくし:筑紫/尽くし
◎つま:褄〈着物の端〉/妻
・とほし:遠江(とおとうみ)/遠し
・とりゐ:鳥居/鳥ゐ〈鳥がいる〉
・なー夏/波/無/涙
*いずれも「な」の音のみ
・ながすー長洲/流す
・ながらー長良/ながら〈接続助詞〉
・ながるー流る/泣かる
・なきー渚/無き/泣き
・なきー鳴き/泣き
・なげきー投げ木/嘆き
・なこそー勿来/な来そ〈来るな〉
◎なみー浪/無み〈語幹用法:無いので〉/涙
・なるー「鳴」海/鳴る
・なるー成る/生る
◎なるー褻る(萎る)〈着物がよれる〉/馴る(慣る)
・ねー根/音/寝
・のちー「後」瀬山/後
・ははー葉は/母
・ははー「箒」木(ははぎ)/母
・はつー「初」瀬/初/果つ
◎はるー春/張る
・はる(ばる)ー張る/「遥」々
・ひー火/恋「ひ」
・ひー日向(ひゅうが)/日
・ひくー引く/弾く
・ひしきーひじき〈海藻〉/引敷き
・ひとくーひとく〈鶯の鳴き声〉/人来
◎ひとよー一節/一夜
・ふるさとー降る里/古る里 *降る/古る
◎ふみー踏み/文
・ふるふー震ふ/振るふ
◎へー綜〈糸を伸ばして織り機にかける〉/経
・みー三保/「見」る
・みすー御簾/見す
・みのー御野/蓑
・みのをはりー美濃尾張/身の終はり
・みよー御代/見よ
・みゆきー深雪(み雪・御雪)/行幸(御幸:天皇のお出まし)
・みるめー海松布/見る目
◎みをつくしー澪標/身を尽くし
・もるー「守」山/漏る/盛る
・やまひー山居/病
・やみー闇/止み
・ゆきー雪/行き
・よー代/世/節/夜
・よきー斧/良き
・わきー湧き/分き
・わすれがたみー忘形見/忘れ難み
・をしー「鴛」鴦(おしどり)/惜し