「現代文」を理解するための読書

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

国語の読解力と読書との関係については、方々で議論され、語りつくされていると私自身感じているのですが、「現代文」という科目の性格と読書とを結び付けたお話はあまり聞きません。

ですから、私の考えをお伝えしておこうということで記事にしておきます。

「現代文」とはどのような科目か

現代文という科目の目標を、学習指導要領の言葉から離れてあえて私の表現で表すと、

現代という時代が抱える諸問題を考えるにあたって重要な視点や、問題意識を内面化すること

となります。

もう少し乱暴な言い方をしてしまえば、

現代という時代が抱える諸問題について関心を持っている層(研究者・インテリ層)が好んで読む(ないし、学生に読ませておきたいと思う)文章を読み、理解した内容を適切に伝えること

ができれば、大学入試に挑む学生としては十二分な学力がついているということになりますね。

このような書き方をすると、ずいぶんハードルが高そうに感じるでしょうが、事実ハードルは高いのです。

ですから、大学に進学してそれなりに学問をしようとするのであれば、相応の訓練が必要だということは間違いありません。

アカデミックな視点・言葉の体得は、学問を志すのであれば必須の条件です。

(ただし、この主張は、学問をする目的以外での大学進学を否定するものではありません。)

受験生がしておきたい「読書」とは

受験を志す高校生にとっては、アカデミックな視点・問題意識を獲得するという意味において、「読書」は有効です。

そして、その目的を顧みるなら、書店でふと手に取ったお気に入りの一冊を読みましょう、とはならないはずです。

けれども、実際問題、選書は高校生自身には難しい。

入試における現代文に精通したプロの視点が必要になってきます。

例えば、アカデミックな視点・問題意識とは言っても、語り口はそれほど多くはありません。

「現代を考える手掛かりとしての近代社会とは何か」

「グローバル化の進行は、人間のアイデンティティーにどのような影響を及ぼすのか」

「能力主義がもたらした弊害は何か」

「言語は人間の思考をどのように規定しているのか」

「”私”は何によって形作られるのか」

などなど。

扱っている素材が違うにせよ、視点・問題意識の方向性はかなり似通っています。

このような切り口で書かれた良書をプロに選んでもらい、それを読み、分からない箇所は調べるなり質問するなりして能動的に解決をし、理解した内容をまとめていく習慣が身につけば、それだけで相当な力が付きます。

もちろん、そう簡単にいかないから「相当な力」が付くわけですが、プロのサポートがあれば、それなりに「意義ある」読書ができるようになりますよ。

選書の基本方針

選書の基準は、①入試現代文が扱う問題意識の内面化に役立つか ②学生が読めるレベルの言葉で書かれているか です。

私自身の思想や好き嫌いは抜きにして選ぶのが鉄則です。

公的な機関である「大学」が扱えるテーマ・主張に沿い、それをまずは理解することが重要で、それを理解したうえで伸るか反るかを決めればよいだけの話ですからね。

もちろん、「批判的に読む」という技術は、ほとんどの学生には求めるべくもない高度な技術だと思います。

しかし、読んだ本の主張をなぞってしまうという危険性は、指導者の働きかけ次第で軽減はできます。

筆者の視点を相対化する視点を与えられるかどうかは、指導者の腕によるところ大きいですね。

選書の一例

では、具体的にいくつか選書例を提示しておきましょう。

1.キリスト教の真実ー西洋近代をもたらした宗教思想〈竹下節子〉

現代を理解するためには、近代を理解しなくてはなりません。

そして、西洋近代を理解するうえで、キリスト教の知識は必須になってきます。

宗教を扱った文章について読む学生は多くはありませんが、こういった視点を持っているか否かは大きな差を生みますよ。

2.日本哲学の最前線〈山口尚〉

國分功一郎、伊藤亜紗など、新進気鋭の哲学者・思想家から、最新の評論の切り口を学べる一冊です。

現代文参考書に名著は多いですが、総じて扱っている文章が「古い」という欠点も持ち合わせています。(これは受験指導に「使えない」ということを全く意味していません。)

「現代」文を学ぶ上で、「現代」の思想を追わないのは悪手としか言いようがありません。

3.「私」をつくる―近代小説の試み〈安藤宏〉

日本近代小説は、「私」という概念を作り出すことに力を注いでいました。

そうした歴史を知っておくと、入試現代文における小説の捉え方が全く変わってきます。


この他にも多様な切り口があり、その分だけおすすめしたい作品がありますが、知りたいという方は直接お聞きくだされば幸いです。