2021年度広島大学附属中学校:入学検査問題(国語)大問2解説〈後編〉

広島国語屋本舗現古館 館長の小林です。
今回は、令和3年度(2021年度)広大附属中入学検査問題の大問2の解説(後編)です。
令和3年度(2021年度)広大附属中入学検査問題の大問2の解説(中編)は、こちらをご覧ください。
問7:脱文補充問題
本文中から「木立の奥から蝉の声が響いてきた。」という一文を抜いています。この一文は本文中の【あ】~【え】のどこにあてはまりますか。最も適切なものを選び、【あ】~【え】の記号で答えなさい。
【え】
この問題は中学入試らしい出題でした。
「蝉の声」がいつ聞こえるものなのかを考えてみると、解答は容易だったはずです。
蝉の声→夏・朝~夕方
これを満たす部分は、「三日後の朝」という描写のある【え】しかありません。
気づければ終わり、そんな問題ですが、気づき方にもコツがあります。
脱文補充問題は、脱文そのものにヒントが含まれる、というルールを知っているかどうかです。
たとえば、今回のような「時間帯・季節」を限定するヒントが含まれていたり、指示語が指す内容がヒントになっていたりすると、探す場所・場面は限定されますよね。
はたまた、脱文が何らかの因果関係を構築している場合は、【因】→【果】、【果】→【因】の結びつきを確認すればよいだけです。
必ず、脱文の中にヒントが与えられているはずですから、探す場所を狭められないかどうか考えてみるのが先決ですよ。
問8:どういうことか問題(記述/象徴の理解)
波線部「赤いショール」の役割は本文中で変化しています。どのように変化していますか。五十字以内で説明しなさい。
祖母を思い出させ、美緒の不安をやわらげる役割から、将来の夢に向けて背中を押す役割へと変化している。【49字】
この問題は、2つの意味で重要な設問です。
1つ目は、象徴表現の理解を問っているという意味で、2つ目は、変化の説明を問っているという意味で、です。
まず、象徴とは何かをご説明しましょう。
①その場にある具体物で
②それ以外のメッセージを伝える
これが象徴表現の基本になります。
たとえば、「暗雲がたちこめ、雷鳴が轟いた」という表現があったとしましょう。
ここでは、実際に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いているはずですが、「何か良くないことが起こっている」というメッセージも伝わってきますよね。
今回の「赤いショール」も明らかに何らかのメッセージを伝えていますよね。
それが何かをつかむ必要があるわけです。
次に、変化の説明公式についてお伝えしましょう。
AからBへ変化している。
つまり、変化前と変化後の2ポイントをおさえる必要があるということです。
この物語における「変化」とは、職人になるという夢に対する美緒の不安→覚悟ですよね。
その主題に、美緒が大切にしている「赤いショール」がかかわっていることは疑う余地がありません。
物語の冒頭、「祖母が~作ってくれたのが、このショールだ」「布に触れた指先から、ほのかなぬくもりが伝わってくる」とあるように、赤いショールは美緒に祖母を思い出させ、穏やかな気持ちにさせています。
また、羊毛の仕事につく覚悟がつかないで、不安を感じている際に、「ショールを頭からかぶ」っていますよね。
彼女にとって、「赤いショール」は不安をやわらげ、守ってくれる存在なのです。
けれども、「水仙月の四日」を思い浮かべた場面で、美緒に「色と布の力」を気づかせ、布を「今すぐ、作り始めたい衝動」を湧きあがらせています。
美緒の背中を押す役割も果たしているわけですね。
以上のポイントをまとめると解答になります。
いかがだったでしょうか。
さすがに広大附属、文章量もさることながら、幅広く問いに答える力を試せる良い作問だったと思います。
どれだけテクニックを持っていたとしても、結局のところ「読めなければ終わり」。
ご理解いただけたでしょうか。
だんだんとこうした解説記事も増やしていきますので、続編を気長にお待ちください。