2021年度広島大学附属中学校:入学検査問題(国語)大問2解説〈中編〉

広島国語屋本舗現古館 館長の小林です。
今回は、令和3年度(2021年度)広大附属中入学検査問題の大問2の解説(中編)です。
令和3年度(2021年度)広大附属中入学検査問題の大問2の解説(前編)は、こちらをご覧ください。
問4:どういうこと問題(記述)
「消火器の重さがずしりと腕にかかる。しかし、なるべく軽やかに持ち、美緒は残りの薬剤を天井に吹き付ける」とありますが、この部分から美緒のどのような様子がわかりますか。五十字以内で答えなさい。
炎を消すことができて安心したが、まだ心配している祖父の不安をぬぐうために、気丈にふるまっている様子。(50字)
この問題は、「この部分から美緒のどのような様子がわかりますか」と問っているので、傍線部の内容を言い換える「どういうこと問題」だと捉えましょう。
ここでは、説明の必要なポイントが内容が2点ありますね。
①「消火器の重さがずしりと腕にかかる」とはどういうことか
②「しかし、なるべく軽やかに持ち」とはどういうことか
美緒が傍線部のような行動に出たのには理由があるはずですから、それをまずは探っていきましょう。
突然の火事を受けて、美緒は必死に消火を試み、なんとか火を消し止めることができました。
「消えた、消えたよ、おじいちゃん。すごいね、消火器」と美緒は安心します。
しかし、祖父は「かすれた声」で、「さがりなさい、危ないから」とまだ心配をしている様子です。
その不安を拭うため、美緒は「大丈夫、もう大丈夫だよ」と祖父に語り掛けました。
以上の要素を簡単にまとめると、以下のようになります。
火事を消し止める(原因)→安心(美緒の心情)
祖父の心配(原因)→安心させたい(美緒の心情)
これがつかめれば、「消火器の重さがずしりと腕にかか」った意味も、「なるべく軽やかに持」とうとした意味もわかるはずです。
解答の要素は以下の通りです。
①「消火器の重さがずしりと腕にかかる」→美緒の緊張が解けた、美緒が安心したということを示す
②「しかし、なるべく~吹き付ける」→美緒が、祖父の不安を解消するために気丈にふるまっている、強い自分を演じている、ということを示す
この2点がまとまっていれば正答となります。
ただ、傍線部のあとを読めば、祖父が工房が燃えてしまったことで茫然自失としていたことが分かるんですね。
つまり、「さがりなさい、危ないから」という発言も、単純な「心配」ではないということです。
しかし、ここではあくまで「美緒の」「様子」が問われているわけですから、解答にそれを反映させる必要はありません。
問5:なぜですか問題(選択)
「聞いておきたい」とありますが、この言葉に込められた祖父の気持ちとして最も適切なものを次のア~エから選び、記号で答えなさい。
イ 自分はいつまでこの仕事を続けられるかわからないので、美緒の強さを感じた今、思いを聞いておきたいという気持ち。
ここでは、美緒が何色のショールを作りたいのか「聞いておきたい」といった祖父の心情を問っています。
つまり、祖父が美緒の気持ちを「聞いておきたい」のは「なぜですか」という問題なんですね。
ですから、祖父がそう思うに至った理由を探っていくことになります。
しかし、祖父の心情そのものは、実ははっきりとは記述されていないんですよね。
これは困りました。
あきらめましょう。
というわけにもいかないので、「事件から逆算する」という方法をお伝えします。
心情の変化には必ず原因があるということは繰り返しお伝えしている通りです。
ですから、祖父が美緒の気持ちを聞いたいと考えるに至るためには、何らかの原因があるはずなのですね。
そしてその原因は、直前にあった事件にあるはずです。
今回は、火事がそれにあたります。
炊事をしようとしていたことを忘れた結果火事を起こし、「私はもう……駄目かもしれない」と感じている祖父。
見事火事を消し止め、祖父への気遣いまで見せた頼もしい美緒。
明らかに対比的に描かれています。
心情が変わるに足る事件はおさえました。
あとは、それから類推される祖父の心情を考えればよいわけです。
限界を感じる祖父 ↔ 頼もしい美緒 ⇒ 美緒の思いを聞いておきたい
祖父が美緒の気持ちを聞いておこうという思いは、美緒の見せた頼もしさ、強さからきたということですね。
選択肢の検討に入ります。
ア→「今、美緒にそれを感じ取らせて心配させたくない」× 美緒の思いを聞くことが、自分への心配を和らげることにはなりませんし、「美緒の頼もしさ」に触れられていません。
ウ→「自分はこれからも美緒たちと一緒にこの仕事を続けたいと思っているので」× そういった思いが読み取れる描写はありませんし、「駄目かもしれない」と限界を感じています。
エ→「美緒の気持ちが変わらないうちに決意表明させたい」× そういった描写はありません。悪徳商法ではないのです。
問6:なぜですか問題(選択)
「ひるむ気持ちを抑え」とありますが、この時の美緒の気持ちとして最も適切なものを次のア~エから選び、記号で答えなさい。
エ 祖父の様子を見て、自分の気持ちを素直に伝えることをためらったが、ここで伝えなければ自分を変えられないという気持ち。
この問題は、「ひるむ気持ちを抑え」という心情に傍線が引かれています。
つまり、「なぜ」その心情になったのかを問われているということなので、これは「なぜですか問題」として対処しましょう。
まず、美緒がひるんだ原因を探りましょう。
傍線の直前に美緒が「ためら」っている描写がありますね。
祖父に「何色のショールを作りたいのか」と尋ねられ、「赤、と答えようとして、ためらう」とあります。
なぜでしょうか。
「昨夜の炎の色が目にまだ残っている」からですね。
火事を起こしてしまった翌日、「部屋から出てこなかった」祖父に対して、炎を連想させる言葉は避けたかったことでしょう。
しかし、「また今度でいいよ」と辞してなお「色に託す願いは何だ」と問ってくる祖父に対して、美緒は覚悟を決め「声を張」って答えます。
「赤です。」
それを受けて、祖父は「目を伏せ」ます。
これが、「ひるむ気持ち」の原因ですね。
自分の気持ちを伝えたことによる祖父の反応を見て、思いを語ることを一瞬ためらったのです。
しかし、美緒はその気持ちを「抑え」ます。
なぜでしょうか。
ためらう気持ちを抑えて美緒は言葉を続けます。
「託す願いは『強くなりたい』」
「好きなものを好きと言える強さが欲しい」
その願いを実現させるために、美緒は一歩踏み出したのですね。
以上の要素をまとめると、以下のようになります。
①思いを告げた後の祖父の反応を見て、
②言葉を続けることをためらったが、
③自分の願いの実現に向け一歩踏み出そうという気持ち。 + から、ひるむ気持ちを抑えた
選択肢の検討に入ります。
ア→「まだ気持ちが決まったわけではないが」× 直後で弟子入り志願をしています、。
イ→「祖父の期待に応えられないかもしれないが」× 「ひる」んだ理由がずれています。
ウ→「祖父にわかってもらえないかもしれないが」× イと同じく、「ひる」んだ理由がずれています。