2021年度広島大学附属中学校:入学検査問題(国語)大問1解説〈後編〉

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

今回は、2021年度広島大学附属中学校入学検査問題(国語)の大問1の解説〈後編〉を行っていきます。

2021年度広島大学附属中学校入学検査問題(国語)の大問1の解説〈中編〉はこちらからご確認ください。

問7:どういうこと問題(選択)

「どうも違うなと思うこともあります」とありますが、筆者はどういうことに対してそう思うのですか。

ウ、虚構との付き合い方を忘れてしまったことが問題であるのに、仮想現実に浸ることが悪いと批判されていること。


まずは、傍線部を一文に戻して分析していきましょう。

「若者が大人に叱られるという構図がここにもあるのですが、どうも違うなと思うこともあります」とあります。

ここで注目したいのは、「ここにも」という言葉です。

「若者が大人に叱られるという構図」がどこに表れているのかを教えてくれているのですね。

こそあど言葉〈指示語〉が何を指しているかを入れて考えてみましょう。

指示語はほとんどの場合前の文脈を指しており、今回もその例にもれません。

ここでは、「仮想現実にばかりひたっているから現実世界と対応できない」という批判に、「若者が大人に叱られる構図」をみてとり、それに対して「違うな」と感じているわけです。

では、なぜ「違うな」と感じているのでしょう。

傍線部のすぐあとで、「仮想であること自体が悪いのではな」く、「虚構を語る」ことは「きわめてヒューマンな所作」であり、むしろ人間が「虚構との付き合い方を忘れてしまっ」ている、と指摘しています。

これらをまとめると、筆者の主張が見えてきます。

①虚構を語るという行為はきわめて人間的な所作であり、

②そうした虚構との付き合い方を人が忘れてしまっていることが問題であるため、

③「仮想現実にばかりにひたっているから現実世界と対応できない」という若者への批判はあたらない。


それでは、選択肢の検討に入っていきましょう。

ア→「技術の発展が滞る危険を含んでいる」× 「技術の発展が滞る」ことを心配しているのではなく、批判のあり方がおかしいよ、と指摘しているのです。

イ→「そういう慣習(若者が大人に叱られるという慣習)が見られなくなる」× むしろ、その叱り方がおかしいと言っています。

エ→全文× 筆者の意見と真逆です。

問8:どういうこと問題(記述)

「それは小説を読むという手間のかかる作業に何かがあると信じているからです」とありますが、筆者は何があると言うのですか。本文をふまえて五十字以内で答えなさい。

洗練された嘘を語る小説を読むことで、嘘をうまく利用し、世界と適切にかかわれるようになること。(46字)


これを小学生に解かせるのか!とひっくり返るような難問です。

まずは、傍線部の分析から始めていきましょう。

「それは」という指示語がありますから、前を見て補ってあげましょう。

簡単に前の文脈をまとめると、【高度な嘘と付き合う必要があり、付き合い方が難しい小説を読んだり、人に薦めたりする理由】が「それ」の指している内容です。

もっと簡単に言い換えると、【難しいのに小説を推す理由】ですね。

その理由を筆者は「何かがあると信じているからです」と述べているわけですが、その「何か」って何よ!という問題です。

中身が入っていない箱には中身を入れてあげなくてはいけません。

小説を読むとどんないいことがあるか、を本文から見つけてまとめていくというのが、この問題を解く上での基本方針になります。

では、どこに小説の良さが書かれているのでしょう。

やみくもに文章を読むのではなく、意味のまとまり【意味段落】を意識して、探す場所を狭めていきましょう。

【意味段落】を意識して、と書きましたが、具体的には、文章を最初に読んでいるときに、スラッシュを入れながら文章を意味のまとまりで分けておくと効果的です。

今回は、私がざっくりと分けておきますね。


①~④:小説が読まれなくなった

⑤~⑧:嘘との付き合い方がわからないから読めない

⑨~⑪:嘘の強みとそれに反応できない人々

⑫~⑬:小説を読もう


さて、探すべき場所はわかりましたか?

明らかに、⑨~⑪段落から、小説(洗練された嘘を含む文章)の強みを探してまとめてこい!という要求にしか見えませんよね。

その通りにしましょう。

まず、⑨段落目から。

ここには、嘘の強みが書かれています。

「将来について仮想し準備を整える」ことができること、あるいは、「起きてしまった現実を前にして」見なかったことにして「前に進む」ことができること。

これが嘘の強みですが、50字でまとめるとなると、字数が長すぎます。

ですから、それら2つをまとめた内容、「適切なやり方で世界とかかわることができる」こと、ここを採用します。

次に、⑪段落目に注目してみましょう。

「そこはまさに小説の活躍するはずの場所なのです」とあります。

「そこ」とはどこでしょうか?

⑩段落目を見てみます。

すると、「私たちの現実世界に影響を及ぼしうるような際どい嘘を、うまく利用することができなくなってきた」という表現が見つかります。

逆に言えば、「私たちの現実世界に影響を及ぼしうるような際どい嘘を、うまく利用」できるようにすることこそが、小説の活躍の場所なのですね。

これらをまとめて解答を作りましょう。

小説を読むことの良さは何なのかを聞いているので、小説を読んでできるようになることをゴールに置く必要があります。

よって、「適切なやり方で世界とかかわることができる」を最後に置くことにします。

①洗練された嘘を語る小説を読むことで、〈小説には嘘が含まれていることを書く〉

②嘘をうまく利用し、〈その結果、嘘との付き合い方が身につくことを書く〉

③世界と適切にかかわれるようになること。〈嘘との付き合い方が身についた結果、どんな良いことがあるのかを書く〉

ポイントは、意味の幅でしぼって探そう!


さて、大問1の解説はいかがだったでしょうか。

合計3記事にかけて、長々と解説をしてきましたが、広大附属中の国語がそう甘いものではない、ということはご理解いただけたでしょうか。

「国語の答えは本文にあるんだ!さぁ探してみよう!近くにあったな!」といったような「指導」ではスタートラインにも立てないのですね。

様々な読解の、解答のコツを書いてきましたが、一番重要なのは本文の理解です。

ここがずれていると、どれだけ素晴らしい「テクニック」を教わっても、役に立ちません。

本文を精確に理解したうえで、問われた内容を把握し、解法技術を習得していくのです。

決して楽な道ではありませんが、大学入試まで一貫して通用する力を現古館は育てます。

それでは、2021年度広島大学附属中学校:入学検査問題(国語)大問2の解説でお会いしましょう。

お疲れさまでした。