令和3年度広島県公立高校入試選抜Ⅱ・国語:大問3の解説
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
令和3年度広島県公立高校入試選抜Ⅱ・国語の大問1、大問2の解説をしてきましたが、今回は大問3の解説を致します。
大問3の概観
出典は江戸中期の俳論書「独ごと」です。
広島県公立高校入試選抜Ⅱの大問3では、過去5年間の過去問において、歌論→物語→物語→漢詩→物語という出題になっていましたから、硬質な古文が出題されたのは平成28年度以来5年ぶりだと言えます。
これまでのように、本文と関わりのある別の文章を踏まえた生徒の会話文という形ではなく、本文の内容を深めた意見記述を求める問いが出題された点では、目新しく感じた人が多いかもしれません。
ただ、意見記述のように見えているだけで、本文の内容と与えられた資料の情報をすり合わせるだけの問題でしたから、難易度的には例年と大差ない仕上がりだったと思います。
しかし、資料の多さや問題文の長さで気圧されてしまった人は、どこから手をつけていいのか分からずに混乱し、時間を使ってしまったかもしれませんね。
問1:現代仮名遣い(1点)
い
「覆ひ」の平仮名の部分だけを直す、という条件に注意しましょう。
問2:内容合致問題(2点)
柳は、桜の花よりもさらに趣があって美しい。水面に垂れて、水の流れにまかせ風に吹かれ、それでいて音をたてることもなく、夏は笠がなく涼みにくる人に涼を与え、秋は一枚の葉っぱが水に浮かんで、風の吹くままに漂っているさまがよく、冬は時雨に打たれる姿に趣があり、雪の積もった眺めもまた趣がある。
桜はといえば、初桜の頃から人の心を浮つかせ、しばらくして、あちらこちらで花が満開になる頃には、花をつけない木々も美しく引き立たせ、日が暮れたのち、また明日も見に来ようと決めていたところに、雨が降ってしまうと残念に思ってしまう。このようにして、春も終わりになっていくと、花がすっかり散ってしまった様を見ることになるが、来年になると再び見ることができると期待してしまうけれども、それがまたむなしさを一層引き立たせる。あるいは遠い山に咲く桜、あるいは青葉に隠れるように咲いている遅咲きの桜、あるいは若葉の季節の桜の花の趣は、それぞれ同じではなく、様々な趣があるのである。だからこそ、桜は多くの花よりもまさって、昔も今も多くの人々の心を惹きつけてやまないのだ。
中学生が意味をとりやすいように、できる限り意訳をして全文訳をしてみました。
たとえ分からない語が多く、テーマを難しく感じることがあったとしても、広島県公立高校入試選抜Ⅱ・国語の大問3では、注釈が多く存在しますから、それを手掛かりにして、分かる部分を読みつないでいけばよいのです。
全文訳ができなかったとしても、不安にならないでくださいね。
さて、問2は本文が読めればそれだけで解けますよね。
ア→「笠の代わりに柳の枝を手に持って歩く姿」が×
ウ→「桜が散った後の桜の青葉が、枝で風にたなびいている様子」が×
エ→「雨が降る中で花びらが散っている様子も一段と美しい」が×
よって、
イ
が正解です。
問3:形式に沿った解釈の記述問題(3点)
また来る春をたのむもはかなし とあるが、何をむなしいといっているのですか。「……のに、……しまうこと。」という形式によって、現代の言葉を用いて書きなさい。
全文訳を上に載せているので答えはすぐ分かると思うのですが、ここでは考え方のプロセスをお伝えしますね。
字数の指定はないものの、「……のに、……しまうこと」という形式が与えられていますから、まずはその形式と傍線部の分析を行いましょう。
傍線部「また来る春をたのむもはかなし」の「たのむもはかなし」については、既に現代語訳が与えられています。
〈期待してしまうけれどそれもむなしい〉
形式の後半に書く内容は、「何かを期待してしまうこと。」です。
では、何を?
「また来る春を」、つまり、「再び桜が咲く季節の到来を」ですね。
では、形式の前半には何を入れましょうか?
「……のに、」は逆接ですから、本文の「春も末になりゆけば、散りつくす世の有様を見つれど、」と対応します。
以上の2点をまとめると解答です。
春が終われば桜は散ってしまうのに、 / また次の年に桜が咲くことを期待してしまうこと。
問4:空所補充問題(Ⅱ→2点 Ⅲ→2点)
非常に長い問題文、資料が与えられていますが、ここでひるんではいけません。
このように、与えられた情報が多い場合は、
①自分は何を書かされるのか
②ヒントとして利用すべき資料はどれか
をまずは判断していきましょう。
①については、問題文から〈中庭に植える木の提案をする〉ということが読み取れます。
②については、空所の前後から〈柳か桜の木を植えることで伝えるメッセージと、それがもたらす効果〉が書かれている資料を見つけるのだと分かります。
使うべき資料は【ノート】内の情報に決まっていますから、ここで初めて資料に目を通します。
簡単に整理すると、以下の通りです。
柳 | 桜 |
たくましい生命力 | 「力強さや生命力」「やさしさや美しさ」 |
人が立ち止まって休む | 見飽きることがない |
もちろん、ここにある言葉以外を使っても書くことはできると思いますが(「しなやかで耐久力のある」など)、表に示した語句を使うと解答は書きやすいと思います。
Ⅰが柳の場合
Ⅱ:いつも柳のように強く、しなやかに物事に対処してほしい
*「柳のようにたくましい生命力を持ってほしい」なども可でしょう。
Ⅲ:四季を通じて、安らぎを感じられる
*「人が立ち止まって休むことができる」なども可でしょう。
Ⅰが桜の場合
Ⅱ:桜のように力強く、人への優しさを大切にしてほしい
*「桜のようにやさしく美しく育ってほしい」なども可でしょう。
Ⅲ:春にみんなで集まって、桜の美しさを感じられる
*「年中見飽きることのない」なども可でしょう。
採点基準の解答例は資料を応用してうまく書いてはありますが、解答の許容範囲はかなり広いと考えます。
【ノート】にある言葉をほぼそのままに根拠として利用したとしても、減点されるとは少し考えづらい部分があります。
意味が通り、与えられた情報と矛盾を生んでいなければ、減点するとなると「表現の未熟さ」を根拠にして減点をしていくことになります。
けれども、どういった表現が未熟なのか、という明確な採点基準を用意することは難しく、各高校の採点者たちが、限りある時間の中でその採点基準をすり合わせた上で採点を始める余裕があるとは考えづらいです。
まとめ
形式を与えられ、制限字数の設定なしに記述させられるといった問題は、大問1の「人物像を問う問題」で出題されてきたパターンでした。
が、今回それが大問1から削除されたことによって、それが大問3に回ってきたような印象を受けました。
どちらかというと大問4のような誘導がなされた問4は、与えられた情報の処理順序さえ間違えなければ、時間をとられず書くことができたと思います。
では、令和3年度広島県公立高校入試選抜Ⅱ・国語:大問4の解説でお会いしましょう。