高校現代文:表現効果概論 ②様々な比喩
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
前回は、象徴と比喩の違いについて説明しました。
ただ、一口に比喩と言っても多くの種類があります。
しっかりと勉強して暗記している人は少なく、直喩・隠喩・擬人法くらいしか知らない人がほとんどかもしれませんが、実際の入試で選択肢に出てきたり、書かされたりした事例は数え切れません。
得点は小さくても、明確に差がつく知識です。
この機会に頭に叩き込んでおいてください。
直喩(明喩・シミリ) / 隠喩(暗喩・メタファー)
まず、直喩と隠喩についてです。
比喩の基本は、
①共通の性質に基づいて
②2つの物事を結びつける
というものですが、その結び付け方に様々な方法があるわけです。
直喩:「まるで」「ようだ」「ごとし」といった語を用いる
(例)僕の足の遅さは、まるで亀のようだ。
⇒この場合、〈動きの遅さ〉という共通の性質に基づいて、〈僕の足の遅さ〉と〈亀〉を結びつけていますね。
隠喩:上記の語を用いない
(例)彼は歩く辞書だ。
⇒この場合、〈保有する情報量の多さ〉という共通の性質に基づいて、〈彼〉と〈辞書〉を結びつけています。
ただし、直喩と違って「まるで」「ようだ」といった語を用いていないため、直接的な表現になっています。
隠喩なのに、「直」接的。
紛らわしいですね。
換喩(メトミニー) / 提喩(シネクドキ)
換喩と提喩の区別は、比喩の判別のなかでもかなり難しいです。
ただ、そこまで難度が高い内容は問われることはありませんし、換喩と提喩の区別が解答根拠になる問題は稀ですから、学問的な正しさは横に置いておいて、緩やかに理解しておきましょう。
大前提として、提喩は換喩から派生したものです。
用法がかぶるじゃん!と思う人もいるでしょうが、当たり前といえば当たり前なんですよ。
では、定義をおさえていきましょう。
換喩:連想される内容への言い換えが起こっている〈全体・部分〉〈作者・作品〉〈容器・内容物〉など
(例)あたりを学ランがうろついている。
(例)国語の時間に太宰を読んだ。
(例)やかんを沸かす。
1つ目の例は、部分から全体を連想させる例です。
学ラン〈部分〉はうろつくことはありませんから、学ランから連想される男子学生〈全体〉を連想させるわけですね。
2つ目の例は、作者から作品を連想させる例です。
太宰〈作者〉を読むことなんてできませんが、太宰の著作〈作品〉を読んだのだと連想させていますね。
3つ目の例は、容器から内容物を連想させる例です。
やかん〈容器〉は沸きませんが、やかんの中の水〈内容物〉は沸かすことができます。
提喩には2パターンありますので、セットで押さえておいてください。
提喩:全体⇒部分 / 部分⇒全体の言い換えが起こっている
(例)今日は天気だ。〈全体⇒部分〉
(例)ヤンおばさんは、豆腐屋小町だ。〈部分⇒全体〉
1つ目の例は、全体を部分に言い換えている例です。
天気〈全体〉には様々な種類がありますが、ここではその中でも良い天気、つまり晴れ〈部分〉を示しています。
2つ目の例は、部分を全体に言い換えている例です。
懐かしのヤンおばさんを、小町〈部分〉と表現していますが、美人〈全体〉だと言いたいのですよね。
換喩と提喩の違いですが、
換喩は対象との連想だけで表せる、提喩は全体ー部分の関係が必須
だと考えてください。
換喩の方が、表せる幅が広いのです。
諷喩(アレゴリー)
諷喩(ふうゆ)は、寓意・寓話・類比などと関わりのある語で、これも明確に定義しようと思うと難しいのですが、端的にまとめておきます。
諷喩:隠喩の繰り返しで真意を伝える
(例)2人の関係はアリとキリギリスだ。
2人の関係を〈アリ〉と〈キリギリス〉という隠喩の繰り返しでたとえています。
アリは「働き者」、キリギリスは「刹那的な快楽に溺れる者」を示す隠喩ですよね。
その繰り返しによって、2人のうちの一方を「働き者」、もう一方を「刹那的な快楽に溺れる者」だとし、「キリギリス」がいずれ痛い目に遭うであろうことを伝えているのです。
音喩(オノマトペ)
音喩は、擬音語(擬声語)と擬態語に分けることができます。
区別は簡単です。
擬音語(擬声語):「音」を言語音で表す
擬態語:「様態」を言語音で表す
(例)雨がざあざあ降る。〈擬音語(擬声語)〉
(例)父がのそのそ起きてくる。〈擬態語〉
1つ目の例の「ざあざあ」は、雨の「音」を表しているので擬音語です。
2つ目の例の「のそのそ」は、父が起きてくる「様態」を表しているので擬態語です。
擬人法
小学生のころから繰り返し学習する内容なので、なじみ深いことでしょう。
擬人法:人でないものを人にたとえる
(例)風がささやく。
風はささやきませんから、もしささやいたとしたら幻聴です。
風のそよぐ音を、人のささやきに例えているのですね。
チャレンジ問題
問1:【花=桜のレトリック】について、「花見」における「花」と同じ用法(より一般的な意味(類)を表す言葉を用いて、より特殊な意味(種)を表す用法)のものには○で、異なる用法のものには×で答えなさい。〈神戸女学院・改題〉
a 人はパンのみにて生きるにあらず。
b みんなで鍋を食べよう。
c 明日天気になるといいね。
d 父は仕事の鬼だ。
問2:次の中から擬声語が用いられているものを選びなさい。(東海大)
①傷がヒリヒリと痛んだ。
②昨夜はぐっすり眠れた。
③寝ていてドスンと床に落ちた。
④昼間もウトウトした。
⑤布団はふかふかだった。
問3:以下の文に用いられている表現技法として最も適当なものを選べ。(帝塚山学院大)
ファッションは、自由と規制のたわむれである。
問1: a × b × c ○ d ×
aは〈部分⇒全体〉の提喩
bは換喩
cは〈全体⇒部分〉の提喩
dは隠喩
問2:③
他は全て擬態語
問3:擬人法
人でない〈自由と規制〉を、人の行動〈たわむれ〉に例えている。