高校現代文:表現効果概論 ①象徴と比喩の違い

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

広島県公立高校入試においても、広島大学の入試においても、大学入学共通テストにおいても。(正確にはこの逆で、高大接続改革に伴う入試の変化が各所に反映されているという構図です)

表現効果の問題が問われる機会が増えてきましたね。

けれども、まとめてそれを学習する機会がないために、正確な理解ができていないという生徒を多く見かけます。

場当たり的に、文章に出てきた表現と効果を学ぶだけでは、入試で出題された際に対応することは難しいですから、【表現効果概論】と題して情報をお渡ししていくことにします。

そもそも、表現効果って?

私が「表現効果」を説明する際の定義は以下の通りです。

なんらかの表現形式を用いることで、

①他の文との差異を生み、強調するもの

②特定の意味を付与するもの

たとえば、「太陽が 輝く」と書くところを、「輝く 太陽が」と倒置法を用いると、通常の〈主語→述語〉の語順でないために、目立ちますよね。

①の効果です。

また、「僕は君のこと好きだよ」と書くところを、「僕は君のこと好きだよ(本当は嫌いだけどな)」と書けば、「僕」の発言が実際の心情と一致していないという意味が付与されます。

②の効果ですね。

他にも様々な表現効果がありますが、期待される効果の原則は上記の2つです。

まずは、ここをおさえておいてください。

象徴と比喩の違い

次に、以下の2つの文を読んでいただきましょう。

(A)暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いた。

(B)洪水が、頭の中に押し寄せてきた。

さて、どちらが「象徴」で、どちらが「比喩」でしょうか?

ここで注目していただきたいのは、言葉本来の意味も持っているかどうか〈実在性〉です。

(A)は、実際に天気が悪いという意味を持っていますが、(B)は、実際に洪水が押し寄せてきたわけではありません。

「暗雲」「雷鳴」 → 悪天候 ⇒ 悪い展開を示唆

「洪水」 → 膨大な水が押し寄せてくる ⇒ 膨大な情報が押し寄せてくることを示唆

上のような図式で捉えてみると、どちらも〈類似性〉からメッセージを伝えているわけですが、(A)には実在性があり、(B)にはないという違いがあります。

まとめると、以下のようになりますね。

実在性類似性
象徴
比喩×

選択肢問題にチャレンジ

以下の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

「もう休んじゃえよ。」ゴールまで残り10kmを切ったとき、風が囁いてきた。ここまで32.195kmを走り抜いてはきたものの、限界だ。今すぐにでも倒れこんでしまいたい。今この瞬間に横になることができたら、泥のように眠れる自信がある。あたり一帯にはだんだんと深い霧がかかってきた。無理だ。とてもじゃないけど、あと10kmはもたない。そう考えたとき、観客の歓声の中に、聞き慣れた声が混じるのを聞いた。「タロウ!あと10kmだ!!」霧が晴れた。まだいける。

小林けい太「片手間に書いた雑物語」による

問い:文章中の表現について、明確に誤っている選択肢を、次のア~エから選び、記号で答えなさい。

ア、「深い霧がかかってきた」という表現は、主人公のマラソン完走への意志に陰りが出てきたことを象徴している。

イ、「風が囁いてきた」という擬人法により、主人公の疲労の深さを強調している。

ウ、「霧が晴れた」という表現は、主人公がマラソン完走への意志を取り戻したことを明示している。

エ、「泥のように」という直喩により、主人公の疲労の深さを暗示している。


さて、どうしようもない文章に、片手間で作った選択肢。

これを解いていただくのは恐縮ですが、大切なポイントだけは入れているので許してください。(著作権って大変)

気を取り直して、選択肢の検討をしていきましょう。


ア、「深い霧がかかってきた」 ⇒ 実在性○ = 象徴○ ⇒ 「マラソン完走への意志に陰りが出てきた」○

イ、「風が囁いてきた」 ⇒ 実在性× = 比喩(擬人法:人でないものを人にたとえる)○ ⇒ 「主人公の疲労の深さを強調」○

ウ、「霧が晴れた」 ⇒ 実在性○ = 象徴(明示:はっきり示す× / 暗示:手がかりを与えてそれとなく示す○) ⇒ 「主人公がマラソン完走への意志を取り戻した」○ ⇒ 「明示」部分が誤り

エ、「泥のように」 ⇒ 実在性× = 比喩(直喩:「まるで」「ような」「みたい」「ごとく」のような語句を用いたたとえ ○/ 隠喩:先述のような語句を用いないたとえ×) ⇒ 「主人公の疲労の深さを暗示」○

よって、正答はウとなります。

象徴と比喩の違い、明示と暗示・示唆の違い、比喩の形式名の違い、表現の工夫によって生まれた効果の内容の違い。

多くのひっかけポイントが存在しますから、選択肢の検討は慎重に行いましょうね。

今回はこの程度の文章量、この程度の内容、この程度の選択肢の練度ですから簡単でしょうが、問題はいくらでも難しくすることができます。

基本原則を大切に、しっかりと問題演習を積んでいきましょう。