2021年度共通テスト国語・復習解説:第3問
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
引き続き、2021年度共通テストの復習解説を行います。
この第3問については、難化、それもセンター試験時代の難問と比較してもかなりの難度だったと断言できます。
知識一発で解ける問題がほぼ無く、本文の抽象度も高い。
さらに、問われる内容は解釈ばかりで、本文の事実が読み取れれば終わりな問いがありません。
これは受験生泣かせな出題だったと思います。
もちろん、全ての問題を全て解くことができればそれが理想ですが、現実的に考えると試験には制限時間があります。
1つの問題に時間を割いたばかりに、全体を解き切る時間を削り、解けるはずの問題を落としてしまうというのが一番の問題ですから、難度の見極めの重要さも実感されたのではないでしょうか。
その難度の見極めには、ほかの問題と比較できるだけの情報量、演習量が必要ですから、【そうだ、現古館行こう】となるわけですね。
では、特に復習しておいていただきたい設問の解説です。
問2:多義的な基本単語からの解釈
傍線部を一文に戻す、という基本は古文であろうとも変わりません。
内裏わたりの女房も、さまざま御消息聞こゆれども、よろしきほどは、「今みずから」とばかり書かせたまふ。
【宮中に仕える女房も、様々にお手紙を差し上げるけれども、〈並一通り程度の付き合いの人に対しては〉(長家様は)「いずれ自ら(ご挨拶に伺います)」とだけ(お返事を)お書きになる。】
基本単語〈よろし〉 ⇒ ①優れている、ふさわしい(+イメージ) ②並一通りだ
「今みずから」という短文のお返事を差し上げた理由を問う問題なわけですが、解釈だけなら2通り成り立ちます。
①返事をする気にはなれないが、短文であっても返事をせざるをえない〈よろしきほど=優れている〉相手
②短文の返事で済むような、それほど深くない〈よろしきほど=並一通りの〉相手
もし①であれば、進内侍と和歌のやり取りをしているという事実と矛盾しますから、やはり解釈として適当なのは②の方でしょう。
ここまで解釈できて、ようやく選択肢です。
これ、選択肢から読んでしまうと「どれも解釈可能じゃない?」となってしまっても仕方ないほど、選択肢がよく練られています。
本文を理解し、問いを理解し、答えを想定して、選択肢にあたる、という順序を辿っていなくては、正解することは困難でしょう。
解答は、①となります。
問3:論理の破綻は誤訳の合図
枇杷殿に妻の書いた絵を持っていたところ、枇杷殿はとても喜んで納めてなさったけれども…と長家が回想をしている部分に傍線部が設定されています。
「いみじう興じめでさせたまひて」の主語は枇杷殿。
「て」でつながっているので、「納めたまひし」の主語も枇杷殿です。
よくぞもてまゐりにけるなど、思し残すことなきままに、
〈よくぞ妻の絵を枇杷殿にお持ちし申し上げたことだなぁと、思い残すことがないほどにあれこれと物思いにふけりなさるままに〉
「もてまゐり」は謙譲語ですから、動作の受け手に対する敬意を示します。
絵を「もてまゐ」られたのは枇杷殿ですから、枇杷殿への敬意を示し、動作主は当然長家ですね。
よろづにつけて恋しくのみ思ひ出できこえさせたまふ
〈何かにつけて(亡き妻のことを)恋しく思い出し申し上げなさる〉
解釈が難しいのは、「思し残すことなきままに」でしょうか。
日本語として理解しようとすると、「思い残すことはない」、つまり「悔いはない」という訳になりそうです。
選択肢で言えば②ですね。
けれども、その直後で「恋しく思い出し申し上げなさ」っていますし、妻に対する未練たらたらじゃないですか。
つまり、私たちの現代語の感覚で訳したときに「論理の破綻」が起こってしまうのですね。
ということは、考えられることは1つです。
現代語として理解できると判断している部分が、実はそうではない、誤訳をしているということです。
そう考えると、私が上で訳した解釈が妥当だと感じられませんかね。
思い残すことがないほどにあれこれと物思いにふけりなさる
もう、妻のことはなんでもかんでも思い出しちゃう!ということです。
たとえそこまでの解釈ができなかったとしても、論理の破綻が起こっていることに気づくことができると、4つの誤答は判断可能です。
② ⇒ さきほど示した通り、「後悔はない」が読み取れません。
③ ⇒ 「ままに」に「それでもやはり」という意味はありません。
④ ⇒ 「長家の悲しみ」は亡き妻への思いであり、「絵物語のすべてが消失してしまったこと」に対するものではありません。
⑤ ⇒ 「思ひ出できこえさせたまふ」は「思ひ出で」(動詞「思ひ出づ」・ダ下二・用)「きこえ」(謙譲の補助動詞「きこゆ」・ヤ下二・未)「させ」(尊敬の助動詞「さす」・用)「たまふ」(尊敬の補助動詞「たまふ」・終)と品詞分解できます。二重尊敬(最高敬語)ですね。
和歌についてのお話もしておきたいのですが、これはかなりの分量になってしまいますので、また機会を改めたいと思います。
和歌の修辞法の記事をいずれ書いていこうと思いますので、そちらでご確認ください。