2021年度共通テスト国語・復習用解説:第1問
広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。
第一回共通テストは「無事」終了しましたが、得点ばかりに気をとられている人が多いように感じます。
満点でなかった以上、「できなかったところ」が洗い出されるのがテストです。
学習の基本は、できなかったところをできるようにすること、その反復にほかなりませんから、復習の時間はしっかりとりましょう。
先日、「共通テスト後の国語学習法」と題して記事を書きましたが、そこに書いた内容は、共通テストの復習を終えていることを前提にしたものです。
ですから、この記事では私が注目した問題に絞って、共通テスト国語の解説をしてみようと思います。
志望校の対策に入っていく前の土台固めとして利用してください。
問2|本文の表現を誤答に用いる
傍線部A「民間伝承としての妖怪」とは、どのような存在か。
傍線部を言い換える問題ですが、まずは傍線部を一文に戻しましょう。
民間伝承としての妖怪とは、そうした存在だったのである。
「そうした」という指示語がありますから、前を読んでいくことになります。
同一段落中に書かれている内容を把握していきましょう。
〈妖怪はそもそも、日常的理解を超えた不可思議な現象に意味を与えようとする民俗的な心意から生まれたものであった。〉
なぜ「日常的理解を超えた不可思議な現象に意味を与え」なくてはいけないのでしょうか。
それは、「人間はつねに、経験に裏打ちされた日常的な原因-結果の了解に基づいて目の前に生起する現象を認識し、未来を予見し、さまざまな行動を決定している」けれども、「そうした因果了解では説明のつかない現象に遭遇する」と、「通常の認識や予見」が「無効化」されるため、「人間の心に不安と恐怖」が喚起されてしまうからです。
意味の分からない現象を前にすると、日常的な認識の枠組みでは対処ができませんから、当然怖くなっちゃいますよね。
これを本文では「意味論的な危機」と表現していますが、そうした不可思議な現象を「なんとか意味の体系のなかに回収するために」、妖怪という「文化的装置」が発明されたと説明されています。
ポイントは以下の通り。
①不可思議な現象のもたらす不安や恐怖を緩和するため、
②それに意味を与えることで
③理解可能なものとする(意味の体系のなかに回収する)文化的装置が妖怪である。
選択肢の吟味は、述部 ⇒ 主部の検討を最優先で行います。
すると、①・③以外はすぐに誤答だと分かるでしょう。
②…フィクションの領域においてとらえなおす存在 ⇒ フィクション(虚構)の領域の妖怪については、4段落目以降の文脈の話です
④…意味の体系のリアリティを改めて人間に気づかせる存在 ⇒ 「意味の体系のリアリティ」の意味が分かりませんし、「改めて」と言われましても、という感じですね。
⑤…意味論的な危機を人間の心に生み出す存在 ⇒ 「意味論的な危機」を回避するために妖怪を生み出したのに、危機を生み出してどうする、というツッコミを入れてあげましょう。
①と③については、述部にはあまり問題はありません。
では、それ以外の部分はどうでしょうか。
③目の前の出来事から予測される未来への不安を意味の体系のなかで認識させる存在。 ⇒ 理解不能な現象に意味を与えて理解可能にする、というお話だったのに、「未来への不安を認識」させてしまっていますね。
たしかに、「目の前の出来事から」という部分は、本文の「目の前に生起する現象」と対応していますし、「予測される未来への不安」は「未来を予見し」「予見を無効化」「恐怖を喚起」という部分の言い換えだと言えます。
しかし、肝心の問いに対する答えにはなっていないのですね。
誤答を作る上でのテクニックの1つに、本文の言葉を用いるというものがあります。
言葉が同じだから飛びついてしまう人も多いのですが、問いに対する答えになっていなければ元も子もありません。
選択肢問題は、まず問いに対する答えを自分で言語化し、その言い換え表現を選択肢から探すのです。
その順序を踏んでいないと、「本文で見た単語」に飛びついてとんでもない選択肢を選んでしまうことになります。
私立入試では選択式問題を採用している大学が多いですから、しっかり復習しておきましょう。
解答は①となります。
問5(Ⅲ):資料は本文との関わりの中で出題される
【ノート3】の内容を読むと、芥川龍之介「機械」が17段落目との関わりの中で引用されていることが分かります。
つまり、〈近代において「私」が私にとって「不気味なもの」となったということ〉の具体例として示されているのですね。
本文全体の展開が、
中世:不可思議な現象を説明する記号としての妖怪
近世後期:人間の支配下にある表象としての妖怪
近代:不可思議な人間の内部としての妖怪
という流れになっていることを読み取れていれば、選択肢の最後の部分を読むだけで、解答の候補は絞れてきます。
①…「私」が他人の認識のなかで生かされているという神秘的な存在であることの例にあたる ⇒ 「神秘的」という言葉は本文にありますが、「私」が他者の認識によって存在することが「神秘的」なのではありません。人間の内部に理解不能な領域がある、それが神秘的かつ不気味なのです。
④…「私」が「私」という分身にコントロールされてしまう不気味な存在であることの例にあたる ⇒ こちらも「不気味」という言葉は本文にありますが、分身にコントロールされる「私」という話は本文からも資料からも読み取れません。
②・③・⑤の結論部分は問題がなさそうですから、あとはそれ以外の部分を検討して解答を決めていきましょう。
③会いたいと思っていた人の前に別の僕が姿を現していたと知った ⇒ 「会いたいと思っていた」とどこから読み取れるのでしょうか。
⑤他人にうわさされることに困惑していた ⇒ 「うわさされることに」「困惑していた」という、困惑の原因がおかしいです。
このように、複数資料の問題は一見複雑そうに見えても、それは本文との関わりの中で出題されるわけです。
まずは本文と資料の内容を理解し、その交点をとらえた上で問題にあたりましょう。
解答は②となります。
私が第1問で特に復習していただきたい問題は、上記の2問です。
第1問全体の難度としては、選択肢の難度・文章量・設問数を考慮して、やや易化~例年並みと言えそうです。
次回は、第2問で復習していただきたい問題を解説します。
大学入試センター公表の共通テスト解答はこちらからどうぞ。