広島県公立高校入試詳解:大問1「文学的文章」後半

広島国語屋本舗 現古館・館長の小林です。

この記事では、令和2年度広島県公立高校入試・大問1の解説を行います。

第1問~第3問までの解説は、こちらをご覧ください。

では、早速いってみましょう。

第4問:根拠を示して人物像をまとめる

「……ところや、……ところから、……として描かれていると考えられる。」の形式によって、人物像をまとめる問題です。

平成30年度に導入され、3年連続で出題されています。

傾向はあくまで傾向ですが、それに振り回されないのであれば貴重な情報でもありますから、しっかり過去問演習で対策しておきましょう。

さて、与えられた条件からも分かりますが、「……ところや……ところから、」という部分には、本文の具体的な描写が入ります。

「……として描かれている」の部分には人物像ですね。

つまり、「本文の描写2つを根拠に、人物像をまとめよ」と要求されているわけです。

とはいえ、根拠に利用できる描写がどういうものなのかが分かっていなければ、探すのに時間がかかってしまうでしょうし、そもそも見つけられないということも考えられます。

ですから、過去3年分の模範解答を分析し、根拠に利用できる箇所がどういう描写なのかという特徴をまとめてみましょう。

就職先を考える時も吉の身体のことを心配しているところや、吉を遠くに行かさず下駄屋にしようという父の言葉に賛成するところから、心配性なところのある母親として描かれている。

→ 心配する / 賛成する

自分の行動は、でき心から発したものだと解釈しても慰まないところや、だれかに見とがめられたわけでもないのに、しょげてしまうところから、少しでも自分の中に汚点があることを嫌う、繊細な人物であると読み取れる。

→ 慰まない / しょげてしまう

高原について、一度も口をきいたことがないというだけで「むっつり屋」とみなすところや、「生意気なところがなかった」と上から見下ろすような見方をするところから、人を軽くみる傾向のある人物として描かれていると考えられる。

→ 「むっつり屋」とみなす / 上から見下ろす見方をする

いかがでしょうか。

すべて、その人物の言動や思考についての描写が根拠になっていることに気付きましたか?

考えてみれば当たり前のことですが、「言動や思考の描写を探すぞ」という意識をもって探し始めると、根拠を見つけるスピードが格段に上がります。

50分で、4題。

その中には250字前後の小作文もあります。

相応に時間制限が厳しい試験です。

解き方の方針をもつことによって、解くスピードを上げることの重要性は理解していただけると思います。

さて、今回は母親の人物像について問われました。

本文の中に、母親の言動・思考が書かれている描写は多くはありません。

吉の大阪行きを勧める父 → 「大阪は水が悪いというから駄目駄目。幾らお金を儲けても、早く死んだら何もならない。」

吉の信楽行きを提案する姉、同意する父 → 母だけはいつまでも黙っていた。

吉に自宅で下駄屋をさせることを提案する父 → 「それが好い。あの子は身体が弱いから遠くへやりたくない。」

これらの言動・思考は、母のどのような人物像を表しているでしょうか?

考えられる解答パターンは、

①吉を深く愛している母親

②過保護な側面がある母親

③心配性な側面がある母親   といったところでしょう。

根拠が明確に示せていて、そこから導かれる人物像に一定の妥当性があれば、すべて正解になるはずです。

問題文は、「あなたの考えを書きなさい」と指定しているわけですからね。

解答は、 ①吉の身体を心配している ②自宅で下駄屋をやらせる提案に賛成している → ③吉を愛している/過保護/心配性 という要素を満たしていて、形式通りに書けていれば正答   となります。

第5問:会話文への穴埋め(空欄Ⅲ正答率3.3%/部分正答率11.7%)

全体概観でも説明しましたが、「会話文」はヒントなんです。

文豪が書いた作品、当然言葉は難解ですし、テーマもつかみづらい。

だからこそ、会話文という形で「解説」をしてくれているわけですね。

ですから、私たちはその解説を丁寧に読み取り、本文理解の助けにすればよいのです。

さて、広島県公立高校入試・大問1では、5年連続で会話文が採用されているわけですが、その出題はすべて穴埋め問題の形をとっています。

穴埋め問題の鉄則は、前後にあるヒントをつかむこと。

(1)、(2)の前後をしっかり確認し、問題文の誘導に則って解答をしていきましょう。

空欄Ⅱの前後を確認しましょう。

ということは、仮面は吉の( Ⅱ )を象徴していると考えられない? 

「ということは」という言葉は、「つまり」と同じ働きを持っており、「直前内容の言い換え・まとめ」を意味しています。

つまり、「ということは」の前の内容をおさえると、「仮面が吉の何を象徴しているか」が分かるということになります。

前を見てみましょう。

だから吉は、「貴様のお蔭で俺は下駄屋になったのだ!」と言っているんだね。

ここにも接続詞「だから」がありますね。

「だから」は、「原因 だから 結果」という順序で因果関係を示しますから、「だから」の前を見れば、「吉が下駄屋になった理由」が分かります。

吉が引きずり降ろして割った仮面は、吉を下駄屋にするという父の決断の大きなきっかけになっていた

これを言い換えた表現を、選択肢から選べばいいのですね。

今やったように、選択肢問題は「問いに対する答えを考えてから、その言い換え表現を選択肢から探す」という方法をとってください。

選択肢は先に読まない、これも覚えておいていたただきたいところです。

解答は、 ウ 定められた運命 となります。


(2)です。

先ほどと同様に、前後のヒントをとっていきましょう。

吉は強く意識しているわけではないかもしれないけれど、この吉の行動は、吉が( Ⅲ )ということの表れだと思うなぁ。

「この吉の行動」とありますが、こそあど言葉(指示語)が含まれていますね。

指示語は前を見ろの合図です。

腹を立てて仮面を割った後、暫くして、持ち馴れた下駄の台木を眺めるように、割れた仮面を手にとって眺めて、ふと何だかそれで立派な下駄ができそうだと感じているよね

割れた仮面を手に取って眺めて、吉は「下駄」を思い浮かべるのです。

「持ち馴れた」、25年も下駄屋として生き続けたからですね。

空欄Ⅲの直後には、「だから」があります。

後ろも確認しましょうね。

だから、腹が立っていたけれど、暫くすると、もとのように満足そうに表情が和らいだんじゃないかな。

吉は(1)での解答のように、仮面が大きなきっかけとなって下駄屋にされてしまいます。

それは彼にとって「定められた運命」のように感じられたことでしょう。

だからこそ、その象徴であるところの仮面に腹を立てて、割った。

しかし、割れた仮面を眺めていると「下駄」を思い浮かべてしまうのです。

「立派な下駄ができそうだ」と。

そして、表情が和らぐ。

怒りがおさまるだけでなく、むしろ満足さまで覚えるのですね。

この流れでつかんでほしいことは、「立派な下駄を思い浮かべて、心情が+に変化した」ということです。

下駄屋は「定められた運命」の象徴であったにも関わらず、です。

ここで効いてくる表現が「持ち馴れた下駄の台木を眺めるように」ですね。

下駄屋は「定められた運命」だったかもしれませんが、「持ち馴れる」ほど、25年も一つの職を続けると、もはや立派な職人の目線を体得しているのです。

この問題、誘導は多いですが、かなり細かくヒントを拾っていく必要があり、難問だったと思います。

解答は、   ①下駄屋を長年(25年)続けてきた ことで ②下駄屋の技能を体得した職人 になっている。   となります。


いかがだったでしょうか。

難問が混ざってはいるものの、誘導に従えば、ヒントをヒントとして利用できれば、十分に対処できそうではないですか?

必要なのは明確な解答方針、私が言うところの「解の原則」です。

それをしっかり持ったうえで、問題演習を重ねていきましょうね。

次回からは、大問2の解説に入っていきます。